12-15 変形することそのものにロマンがある!
12-15 変形することそのものにロマンがある!
広大なテストコースの中央には、最新鋭の重装甲三輪車両「ケルベロス」に跨り、強化スーツ「アオサギ」を纏った遥が静かに待機していた。
『さて遥。今回のテストは走行性能というより、機体の変形機構がメインとなる。低速走行を行いながら、変形シークエンスに問題がないか確認してみておくれ。私の完璧な設計だから問題はないと思うが……万が一、いや億が一何かあった場合は、いつも通りシラユキ(遠隔補正)で対処を頼むよ。それじゃあ、始めておくれ!』
管制室のクローディア(マリ)は、マイク越しに遥へテスト開始の指令を飛ばす。
……しかし、この平穏で格好いいテスト開始に至るまでには、やはりこのお方が一波乱起こしていたのだった。
――時間を10分ほど巻き戻すこととなる。
◇
『いやぁ~、やっぱり実機が完成すると感無量だねぇ! では早速、開発者であるこの私が記念すべき初試乗を――』
颯爽と白衣の裾を翻し、ウキウキでケルベロスへ乗り込もうとしたマリの首根っこを、背後からガシッと容赦ない力で「むんず」と掴む腕があった。
『はいそこまで、マリ。駄目でしょう。試乗はテストパイロットの遥に任せて、あなたは管制室で監督。ほら、戻るわよ』
『そ、そんなぁ~! せっかく完成したのに、ちょっとくらい乗らせてくれたって良いじゃないかぁー! ゆりのケチー! いじわるー!』
両手両足をジタバタとバタつかせて暴れるマリの襟首を掴んだまま、研究室へとずるずると引きずり戻していくゆり。
『はいはい、ケチで結構。さあ、テスト始めるわよ。遥も準備を――って、もう完了してるわね。……さすが遥』
ゆりはマリを引きずりながらインカムで遥へ準備指示を出そうとしたが、遥はすでに完璧な姿勢で搭乗を完了しており、バイザー越しにいつでも発進できる待機状態に入っていたのだった。
◇
時計の針は現在に戻る。
遥はケルベロスのスロットルを静かに捻り、重厚な排気音とともに車体を力強く滑り出させた。
「――システム、巡航形態から『戦闘形態』へ移行」
ヘルメットのバイザー内に、クリアなシステムメッセージが展開される。
>> Starting transformation from cruising mode to combat mode.
(巡航形態から戦闘形態へ変形開始)
変形指令を受けたケルベロスは、車体各所のナノスラスターを一斉に激しく噴射! 前輪を持ち上げて豪快なダイナミック・ウィリー姿勢へと移行する。
同時に、左右の後輪が接続されていた堅牢なフレーム部位が後方へとスライド・屈曲し、力強い二本の「両脚」へと組み替わっていく。
巨大なエンジンが格納されていた中央ブロックが前方にせり出し、上方へスムーズに移動を開始。
ヘッドライトユニットを兼ねていたフロント部位が左右にダイナミックに分割して強力な「両腕」を形成し、胴体の両脇へ美しくロックされた。
リアカウルにあたる重装甲パーツが後方へスライドして垂直に組み上がり、搭乗している遥を保護するように後方フレームと合体。最後に機体胸部上部から、鋭いセンサー眼を持つ「頭部ユニット」が静かに姿を現した。
ケルベロスは、見事に『戦闘形態』への完全変形を完了させた。
そこに変形を完了し立ち聳え立っていたのは――全高数メートルを誇る、完全なる人型二足歩行ロボット(バトロイド)であった。
「おぉぉぉ……っ!! カッコイイーーッ!! さすが私、歴史に名を残す天才だねぇ! 出来ればこの私がコクピットに乗って操縦したかったのだが……まあ仕方ない! その神々しい雄姿を外からじっくり拝ませてもらうとしよう!」
人型へと完璧に変形し、テストコースに堂々と佇むケルベロスの雄姿を見て、マリは上機嫌でえっへんと胸を張る。
「んー……ねぇマリ。そもそもあれ、人型に変形させる意味ってあったのかしら? あの形態でアノマリー(異形)と戦うの? むしろ関節パーツが増えて壊れやすくなるし、戦闘の邪魔になるんじゃ……」
一人で大はしゃぎするマリの横で、ゆりが至極当然で冷ややかな疑問を投げかける。まさに身も蓋もない正論であった。
「いやいや、ゆりさんや。チッチッチ……」
マリは人差し指を立て、チックックッと左右に振りながら、したり顔で熱く語る。
「『変形すること』そのものにロマンという絶対的な意味があるのだよ!!」
「……はいはい。もういいわ……。遥、テストを続けてちょうだい」
ゆりはすっかり諦めの境地(悟り)に入り、マリの熱弁を軽やかにスルーしながら、遥へ淡々と次のテスト指示を出すのだった。




