12-12 チェンジ! エアロモード!
12-12 チェンジ! エアロモード!
広大なテストコースでは、実に256人もの遥たちが漆黒の「オルトロス」に跨り、激しい大規模走行テストを繰り広げていた。
大人しく走ってさえいれば、このまま何事もなく平穏無事にテストは終了するはずだった。……だが、果たしてそう上手くいくはずもない。
クローディア(マリ)の狂おしき天才の血筋がなせる業なのか、このテストがただの平凡なデータ採取で終わるはずがなかったのだ。
不意に、先頭集団を走る一人の遥が機体の隠し機能を解放する。
「――システム、チェンジ! エアロモード!」
ヘルメットのバイザー内に、鮮烈なシステムメッセージが駆け巡る。
>> Starting transformation from cruise mode to aero mode.
(巡航形態から空力形態へ変形開始)
遥の音声認識命令を受けたオルトロスは、その変形シークエンスを忠実に実行した。
フロントに搭載されていた整流シールドが滑らかに後方へスライドし、搭乗している遥をすっぽりと包み込んで覆い隠す完全流線形構造へと変形していく。
空気抵抗を極限のゼロにまで削ぎ落としたその姿は、まさに「地上を滑走する弾丸ミサイル」そのものであった。
変形を完了したオルトロスは、それまで整然と並んでいた走行隊列を一瞬で置き去りにし、圧倒的な異次元の加速力で独走し始める。
それを見た他の255人の遥たちも、「我も我も」とばかりに次々と機体をエアロモードへと変形させていく。
それはまさに、かつて第11章で行われたあの大混乱の飛行テストの再来であった。
「ゼッケンナンバー34番の遥選手、驚愕の形態変形を披露ーっ! 前方を強固に阻んでいた151番と98番の二人を鮮やかにかわし去ったー! このまま独走状態を維持できるのかーっ!?
おっとぉ! 後続の選手たちも黙ってはいない! 次々と機体をエアロモードに変形させ、34番機を猛追するべく怒涛の勢いでスロットルを開いていくーっ! ……どう見ますか、解説のマリさん!?」
マリが即座に胸を張り、露骨に声色を変えて一人二役の妄想実況・解説に没頭する。
「そうですねぇ、クローディアさん。直線での変形によって二人のブロックをすり抜けたのは見事な戦術判断でした。しかし、変形できるのは他の選手も同じ条件です。先行してドライブコアに高負荷をかけている34番機の状況を考えると、このまま独走を保つのは難しいでしょうね。
何より――あの極限エアロモードで急コーナーを曲がるのは物理的に到底不可能ですから、どこで通常形態に戻すか……最後は意地とプライドの張り合いになると思われますよ」
「ちょっとマリ、何をバカなこと言ってるの。……それより、あの変形機能って最高速を上げるためのものよね? これ、実際の戦闘に必要なのかしら?」
画面越しに変形したオルトロス群が爆音とともにコースを埋め尽くす姿を見ながら、ゆりが呆れ果てた顔でマリへ質問を投げかける。
「あー……それね。実は最近、深夜アニメの再放送で観ちゃったんだよ。『セイバーフォーミュラ』っていう伝説の作品をね! 車がシャキーンと変形するのがあまりにも格好良すぎてさ、ついテンションで参考にしてみたんだよ。……うん、まあ、戦闘用の二輪機能としてはちょっと冗長(無駄)だったかもしれないね」
マリが熱く語る『セイバーフォーミュラ』とは、「セイバーシステム」と呼ばれる超高度なナビゲーションAIをモータースポーツ機体に搭載し、F1を超える極限のレース世界を描いた名作アニメ番組である。
一番の見どころは、世界各国のチームが技術の粋を結集して作り上げた超技術のマシンたちだ。
今回遥が実行した高速直線用の「エアロモード」をはじめ、悪路を破竹の勢いで走破する「ラリーモード」といった状況応じた形態変形機構。ここぞという土壇場で爆発的なオーバーテイクを生み出す「ブーストシステム」。水面すらコースに変える「水上走行用フロート」。さらには、強力なダウンフォースを発生させてトリッキーな超高速コーナリングを可能にする「エフェクトファン」など、男心をくすぐるロマンギミックが満載なのだ。
また、主人公の風見鶏隼太とチームメイトたちの熱い人間ドラマやライバルとの死闘、そして相棒AI「ナスラーダ」と時にぶつかり合い、苦難を乗り越えながら強い絆を築いていく感情描写も大きな魅力となっている。
どうやらマリは、その熱い作品の世界観と圧倒的なマシンロマンに、すっかり感化されてしまったようだった。




