12-11 遥 vs 遥たちの大合同レース!
12-11 遥 vs 遥たちの大合同レース!
テストコースのスタートラインには、完成した漆黒の「オルトロス」に跨った無数の遥たちがズラリと整列し、ピットの管制室にいるゆりからの開始指示を今か今かと待っていた。
やがてモニターのカウントダウンがゼロを示し、ゆりからの発進シグナルが下りると、先頭の機体が強烈な磁気駆動音を響かせて弾丸のように飛び出していく。
続いて次々とオルトロス群がコースへと雪崩れ込み――程なくして、「遥」対「遥」たちによる圧巻の合同テスト走行(という名の大レース)が開始された。
「さぁーっと! 各機一斉に素晴らしいロケットスタート! おっと、早くも第1コーナー前でチェッカーフラッグが振られ、壮絶なデッドヒートの幕開けだーっ!
ゼッケンナンバー34番の遥選手、怒涛のイン刺しで見事な追い上げを見せる! しかし、その前に立ち塞がるのはまたしてもゼッケン151番と98番の遥選手だー!
前回の『フライヤー』のレースでも激しくやり合ったこの二人、今回はどう切り抜けるのか34番遥選手! ……どう思われますか、解説のマリさん!?」
(ピッと胸を張り、露骨に低い声色へとガラリと変えて)
「そうですねぇ。前回はこの二人による見事な連携ブロックに阻まれて悔しい思いをしましたからね。今回は並々ならぬ雪辱の闘志を燃やしているんじゃないでしょうか」
……言うまでもなく、これはクローディア(マリ)による完全なノリノリ妄想の一人芝居である。
隣でその熱演をまざまざと聞かされていたゆりは、額を押さえて深々と溜め息をついた。
「ちょっと、マリ……。何バカなこと言ってるの。ふざけてないで、ちゃんと全機のデータを取って頂戴」
ゆりは呆れ顔でマリを咎めつつも、慣れた手つきで手元のモニタリング端末をテキパキと操作していく。
「いやいや、ゆりさんや。私も遊んでいるわけじゃないよ、キリキリ働いておるよ?」
ゆりの冷ややかなツッコミを軽やかに受け流しながらも、マリの指先はしっかりと端末のキーボードを高速で叩いていた。
「ある程度プログラムは仕込んであるし、各機のデータロガーも自動でログを取得してるからね。そこまでカリカリしなくても大丈夫だよ」
画面のロギング作業が一巡してキリがついたのか、マリはカタカタと叩いていた端末から手を離すと、二人分の温かいマグカップを準備し始めた。
「ほらゆり、どうぞ。淹れたてだから熱いよ、気をつけてね」
「……ありがとう、いただくわ」
ゆりも端末操作を一時中断し、マリから受け取ったコーヒーカップの温もりを両手で確かめながら、ピットの大きな観覧窓へと歩み寄った。
そして、高周波の駆動音とともにコースを猛スピードで疾走していく遥たちの勇姿を見つめる。
「……でも、さすがにこれだけの数のオルトロスが一斉にコースを走行している姿を見ると、圧巻ね」
「そうだね。流石にメガブースターは一機しかないから、全機での空中合体飛行試験まではできないけどね」
マリもゆりの隣に肩を並べ、コース上でミリ単位の激しいオーバーテイクを繰り広げる遥たちを満足そうに眺める。
「そういえば……この機体の『オルトロス』って名前、どこから来たのかしら? そういえば理由を聞いていなかったわね」
画面の隅で点滅する機体名「オルトロス」の英字表記を見て、ふと気になったゆりが何気なく尋ねた。
「ん? ああ、それ? 神話に出てくる二つの頭を持つ魔犬オルトロス。……で、今回は『二輪』だから、オルトロス。……うん、それだけ! なんとなく『これだ!』って天から降りてきた感じかな」
「……相変わらず、直感100%だけで決めてるのね」
マリらしいあまりにも大雑把でシンプルなネーミングの理由に、ゆりは思わずクスッと苦笑いを浮かべた。
そして、コーヒーの湯気の向こうで「えっへん」と自慢気に笑う愛すべき相棒の顔を、どこか愛おしそうに見つめるのだった。




