12-9 一番近くでサポートしたいから
12-9 一番近くでサポートしたいから
ゆりは両手で頭を抱え、深く長いため息をついていた。
この事態は最初から予想できたはずだ――そう何度も心の中で自分に言い聞かせる。そもそも、あの
「オルトロス」のテールランプ背面にわざわざハードポイントが設けられていた時点で、何かしらのロマン兵器が接続される可能性を疑うべきだったのだ。
しかしまずは、この悪夢のような空中爆走劇を引き起こした元凶――クローディア(マリ)から、徹底的に事情を聴取しなければならない。
「ちょっとマリ……! 私、もう何度も何十回も言っているでしょ!? 『ほう・れん・そう(報告・連絡・相談)』よ!! あなたの頭の中は一体どういう構造になっているの!!」
ゆりは言葉のストロークに合わせてマリの頭を両手で力任せに鷲掴みにすると、ぶんぶんと容容赦なく前後に揺さぶった。
「いやいやゆり! ちょっと待って待って! わたしが悪かった! わたしが悪かったから! お願いだから脳揺れちゃうから頭振らないでぇー!?」
クローディア(マリ)は視界がぐるぐると回る激しい振動に耐えながら、ゆりの凶行を止めてくれと必死の形相で懇願した。
◇
ひと悶着のドタバタ劇を繰り広げた二人だったが、しばらくしてようやく頭の揺れが収まると、肩で息を吐きながら管制室のソファへ腰を下ろした。
ちなみに、マッハ1での極限飛行を見事にやり遂げたテストパイロットの遥には、すでに「十分に休んで頂戴」と温かい言葉とともに休憩の指示を出してある。
「いやぁ……でもさぁ、ゆり。せっかく合体と可変機構を持った専用翼があるんだから、使わない手はないでしょ?」
クローディア(マリ)は人差し指をピッと立て、片目をウインクするように瞑りながら、悪びれる様子もなく己の設計思想を主張した。
「マリ……私はね、二輪車に合体ユニットをくっつけて大空を飛び回らせる意味が本気で分からないの。そもそも二輪車っていうのは、地上を走るための乗り物でしょう? 空まで飛ぶ必要なんてどこにもないわ」
支離滅裂な屁理屈で言い訳をこねる生徒を相手にしている気分になり、ゆりは両肩にズシリと目に見えない重みがのしかかってくるような錯覚を覚えた。
「いや、そこはほら……いわゆる『女のロマン』ってやつだよ」
――前回「あなたは男の子じゃなくて女の子でしょう」と容容赦なく突っ込まれたのを思い出したのか、今回は学習して「男のロマン」とは口にしなかった。
普通に考えれば、ゆりの言う通りおとなしく地上を走行していれば良いのだ。しかし、そこはお約束のクローディア(マリ)である。質が悪いことに、無断で仕込んだ隠しギミックで想定以上の圧倒的成果(マッハ1での高機動飛行)を叩き出してしまうあたりが、彼女が『天才』と称される所以でもあった。
「はぁ……まあいいわ。私がこうして口うるさく言っているのはね、計画にない突飛な危険行動を黙ってしないでほしいということなの。最初からちゃんと説明してくれていれば、私もこんなに怒ったりしないわ。……そもそも私がここにいるのは、あなたの研究や開発を一番近くでサポートしたいからなんだから。頭ごなしに『ダメ』なんて言うつもりは毛頭ないのよ。実験に危険はつきものだし、だからこそ相棒として、ある程度のリスクは想定して臨みたいの。そこを分かってほしいのよ」
ゆりの真剣で温かい眼差しを真っ直ぐ受け止め、クローディア(マリ)も流石にこれ以上おちゃらけている場合ではないと、背筋をピシッと正した。
「ゆり、ごめん……私が悪かったよ。ちょっと驚かせてドヤ顔したかったんだ。今後は絶対に、どんな小さなギミックでも事前に話すようにする。それと……いつも私に付き合ってくれて、本当にありがとう」
心の底からの反省と深い感謝の気持ちを込めて、クローディア(マリ)は珍しく素直に、深く頭を下げるのだった。




