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12-7 悪夢の第二幕

12-7 悪夢の第二幕



翌日。

昨日と同じく、抜けるような青空が広がるテストコースのスタートラインには遥が静かに待機し、管制室からの開始合図を待っていた。


『遥、今日も昨日と同じく走行試験を行ってもらうわね。昨日採取したデータを解析した限り、フレームや駆動系に致命的な問題は発生していないと判断したわ。だから今日の試験では昨日と違って一気に速度を引き上げ、各部に高負荷をかけた状態で異常が出ないか確認してもらうわね』

ゆりはインカム越しに、本日の試験概要と負荷目標を遥へ説明する。


「ははは! 心配無用だよゆり! この天才マリちゃん様が作ったんだから、高負荷だろうが問題なんかあるはずがないさ!」

クローディア(マリ)は自信満々に鼻で笑い、ババーンと誇らしげに胸を張ってみせた。


「……ねぇマリ。貴方、昨日も全く同じセリフを言っていたわね。少しはボキャブラリーを増やしたらどうかしら?」

そう呆れ気味に指摘しながら、ゆりは(……というか、私とマリのこのやり取り自体が完全にマンネリ化しているわね……)と心の中で深い溜め息をついていた。


「ぐふっ!? ボ、ボギャブラリーが少ないだと……!? なんだって……そんなはずは……! 私の豊富な語彙力が……!」

ゆりの容赦なさすぎる一言に、マリは胸を大きく押さえて「ガバッ」と吐血するようなリアクションを取り、多大な精神ダメージを負って撃沈した。


『……お待たせ、遥。マリのコントは放置して、それじゃあ試験を開始してください』

崩れ落ちるマリを完全に無視し、ゆりは淡々とインカムへ向けて指示を送る。


『はい、ゆり。これより高負荷走行試験を開始します』

遥がオルトロスのアクセルグリップを滑らかに捻り込むと、漆黒の流線形車体が滑り出すように加速を開始した。


今日出されているオーダーは「限界に近い速度域を出してフレームと磁気駆動系に高負荷をかけること」。遥は一切の躊躇なくスロットルを大きく開いていく。

オルトロスに搭載されているメイン駆動機構は、車輪そのものが回転力を生み出す「リニアホイールドライブ」だ。


従来のモータ構造を切り開いて直線状に伸ばしたような特殊構造であり、強大な磁性体が引き合う引力と弾き合う斥力をミリ秒単位で制御し、車輪をダイレクトに駆動させる。

さらに車体各所に配置された無数のナノスラスターがリアルタイムで微細な空気抵抗と姿勢制御を行うため、ガソリンエンジンのような腹に響く爆音は存在しない。


車輪軸から生じる「キィィィン……!」という甲高い高周波の磁気駆動音とともに、ホイールの隙間から溢れ出る青白く美しいプラズマ光が軌跡を描く。

オーバルコースのストレート――オルトロスのデジタルメーターは、一瞬にして驚異の380km/hを突破。


そのまま減速を最小限に抑え、通常の二輪なら吹き飛ぶような高速コーナリング中も100km/hオーバーを維持したまま、吸い付くように滑らかにラインをトレースしていく。

高負荷状態での走行試験は極めて順調であり、このまま何事もなく完璧なデータが取れて終わるかと思われた。


――しかし。クローディア(マリ)が、このまま大人しくお利口さんに終わらせるはずがなかった。


「……遥、始めておくれ」

先ほどまでの撃沈ぶりが嘘のように立ち直ったマリが、真剣な眼差しで通信機に向かって低く短く指示を出す。

それはゆりにとって、平穏なテスト走行の終わりと、恐ろしい悪夢の第二幕を迎える合図だった。

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