12-6 順調すぎる慣らし走行
12-6 順調すぎる慣らし走行
遥がオルトロスのスロットルを滑らかに回し、広大なテストコースを軽快に走り抜けていく。
コクピットのデジタルメーターが指し示す速度は、およそ100km/h。いわゆる慣らし走行、小手調べの段階だ。
遥にコースを何周も周回してもらいデータ収集を行う管制室の中では、モニターの数値を見つめながら二人が言葉を交わしていた。
「ふむ、特に足回りにもノイズは出ないし問題なさそうだね。実に良い感じだよ!」
クローディア(マリ)は順調にラップタイムを重ねていく遥の姿を画面越しに見つめ、満足そうに頷いた。
「そうね。今のところは、拍子抜けするくらい順調みたいね。……ところでマリ、この走行試験ってどれくらい続けるつもりなの?」
一般的な二輪車の試作機試験であれば、総合的な耐久性や各種環境下での性能確認のために数千から1万キロ以上を走り込み、数ヶ月から1年単位でテストコースや公道を走破するのが常識である。
しかし、彼女たちが開発しているのはあくまで特殊なミリタリー系兵器のベース機だ。今回行うテストは、まずは「走る・曲がる・止まる」という最低限の基本性能の確認にとどまる。
「そうだねぇ、まずは初日の走行でフレームや磁気軸受けに問題がないかの確認からかな。まあ、今のところ致命的なクラックや熱爆走は見当たらなさそうだけどね」
ゆりの質問に対し、マリは両手を頭の後ろで組みながら、椅子に深く腰掛け直して気楽に答える。
「……遥には頑張ってもらうしかないわね。あ、それと念のために言っておくけど――マリ、貴方は絶対に試乗なんてしちゃダメだからね?」
ゆりはビシッと人差し指を立て、マリに向かって鋭い釘を刺すのを忘れなかった。
◇
結局、その日の走行試験は何度かピットインと休憩を挟みつつも、何一つトラブルが起きることなく無事に終了した。
車両をガレージに回収し、各部からログデータを採取して解析作業を進める二人。
「車両側にも異常ログなし、と……。それにしても、なんで私たちが二輪車なんて作って走行試験までしているのかしらね」
ゆりが今更のような根本的疑問をぽつりと口にした理由は、言うまでもない。隣にいるクローディア(マリ)が、あの男からの無茶振り依頼を二つ返事で受理したからだ。
ゆりがジト目を向けて無言のプレッシャーをかける。
「ははは! ゆり、それは愚問だよ。一番の理由は『私が面白そうだと思ったから』さ! ……それにさ、どのみちナベさんに頼まれたら、私たちに拒否権なんてないようなものだしね。あの人、ああ見えてわりと強引だからさ」
朗らかに笑うマリの脳裏には、最初は威勢よく交渉してきて、こちらが難色を示すと最後には「頼む! そこをなんとか!」と必死のドヤ顔&拝み倒しで押し切ってくるナベさんの姿が浮かんでいた。
「はぁ……そうね。分かったわ。まあ仕事として引き受けた以上は、最後までしっかりお付き合いしますとも」
ゆりは重いため息をつくと、半ば諦めと悟りを開いたような表情でキーボードへと向き直し、作業に戻るのだった。




