12-5 珍しくまともな設計……のわけがない
12-5 珍しくまともな設計……のわけがない
「そのギミックはね、サギシリーズの背面に設けてあるハードポイントとまったく同じ規格にしてあるんだよ! つまり、サギシリーズ用に開発された各種追加パックやオプション装備を、そのままこの車両にポン付けで流用できるってわけさ!」
クローディア(マリ)は片目をピシッと瞑り、立てた人差し指をチチチと振って自慢げに胸を張った。
「へぇ……マリ。あなたにしては随分と合理的でまともな設計じゃない。状況に応じてサギの重装備も使い回せる拡張機構ってわけね」
ゆりはマリの解説を聞き、思いのほか実用的で実戦を見据えた構造だったことに「今回は珍しくまともだった……」とホッと安堵の胸を撫で下ろしていた。
――しかし。相手はあのクローディア(マリ)である。
彼女がそんな大人しくお利口な設計だけで満足して終わるはずがなかった。
ゆりが「自分の見識がいかに甘かったか」を骨の髄まで思い知らされることになるのは、もう少しだけ先の話である。
◇
車体サイズが通常のバイクの規格を遥かに凌駕しているため、初回の走行動作試験は郊外にある専用の大型オーバルテストコースで行われることとなった。
青空の下、どこまでも広がるコースのスタートライン。
テストパイロットを務める遥は、その超大型戦闘用二輪「オルトロス」に深く跨がり、静かに発進の時を待っていた。
やがて、遥のヘルメットバイザー内壁に漆黒と真紅のデジタルラインが走り、バイクのディスプレイとしては明らかに過剰で禍々しいシステムログが次々と展開されていく。
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[WARNING] UNAUTHORIZED SYSTEM LINK DETECTED
外部機構:検出 ── 精神同調プロトコル開始
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[CONNECTING...]
─────────── 接続確立中 ───────────
>> LINKING NEURAL-LINK MODULE... 100%
>> SYNCHRONIZING CORE ENGINE... COMPLETE
機構名:【双頭の魔犬 -ORTHRUS-】
外部機構同期完了 ── 状態:正常(全系統オーバーライド)
── SYSTEM INITIALIZATION ──
[!] 精神感応型限界突破システム「オルトロス」起動
[!] 拘束具(安全装置)の強制開放を確認
[!] Twin-Core Aether Drive: ONLINE
『漆黒の双頭よ、我が意志に従い牙を剥け』
── ALL SYSTEMS GO ──
MAX SPEED LIMIT: UNLOCKED
COCKPIT HUD MODE: [ PURGE & BERSERK ]
READY TO RIDE.
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およそ一般的な乗り物のそれとは思えない危険な警告音とともに、「オルトロス」の各種システムが覚醒を果たす。
高台の管制室からモニター越しに機体データを見つめるゆりから、インカムを通じて遥へと指示が飛んだ。
『では、これよりファーストテストを開始します。遥、毎回同じ説明になってしまって恐縮なんだけど……その車両はあくまで『理論上の試作機』だからね。一応走れる設計にはなっているはずだけど、万が一何か異常が起きたら、いつもの通りシラユキの装甲で緊急対処してちょうだい』
「ちょっと、ゆり!? それはいくらなんでも失礼じゃないかな! 『理論上』じゃなくて『必ず』走るんだよ! なにテストパイロットを無駄に不安がらせるような縁起でもないことを言っているのだよ!」
ゆりが打った万全の予防線に対し、隣にいたクローディア(マリ)がすぐさまキャンキャンと噛みつく。
『マリ、あなたも毎回懲りないわね。そうやって「絶対大丈夫」と言い張りながら、過去に何度も大惨事を巻き起こしてきた実績があるから言っているのよ』
マリの猛抗議を、ゆりはキーボードを打つ手を止めずに冷淡にすげなくかわす。
「いやいや、今度こそバッチリだから! 任せておきなよ、この天才マリちゃん様が作ったんだから完璧なのだよ!」
そう言ってババーンと誇らしげに胸を張るクローディア(マリ)だが、一体どこからその根拠ゼロの絶大な自信が湧き出てくるのかは、ラボにおける永遠の不解明領域であった。
『はいはい、バカなこと言ってないでさっさと試験を始めるわよ。……遥、そちらの準備はいいかしら?』
ゆりは完璧なスルー技術でマリをあしらうと、通信の向こう側にいる遥へ問いかけた。
『はい、ゆり。こちらはいつでも大丈夫です。指示があり次第、発進できます』
管制室の二人がいつものような押し問答を繰り広げている間に、遥はすっかりシミュレーションを終え、冷静沈着に待機していたのだった。
『了解。……全システム緑、走行試験を開始してください』
ゆりの合図とともに、遥がオルトロスのアクセルグリップを滑らかに捻り込む。
キィィィン……と高周波のリニア磁気駆動音が低く響き渡り、漆黒の重装甲二輪車は弾丸のような加速でコースへと爆走を開始した。




