12-3 二輪車の皮を被った陸上戦闘機
12-3 二輪車の皮を被った陸上戦闘機
「よし、じゃあちゃっちゃと設計作業を始めちゃおうか」
クローディア(マリ)はそう言うと、気合いを入れるように腕をまくる仕草をして――長袖を着ていないので実際には腕を撫でただけだが――大型ディスプレイ端末のキーボードへ颯爽と指を走らせ始めた。
「まずは基本構造だけど……うん、内燃機関はいらないね。車輪は一応二輪……と」
画面に向かってぶつぶつと吐き出されるマリの不穏すぎる独り言に、隣で作業しようとしていたゆりは思わずぎょっとして手を止めた。
(……いやいやいや! バイク作るのにエンジン無くしてどうやって走らせるつもりよ!?)
心の中で激しく突っ込むゆりを置き去りにしたまま、マリの指先は滑らかなタイピング音を響かせ続ける。
「外部装甲をがっつり追加して……フロント側は空気抵抗を減らすために長く伸ばす感じかな……」
(……はぁ、もういいわ。変に口を出して変形ギミックをさらに増やされても困るし、ここは一旦好きにさせておきましょう)
画面上で急速に組み上がっていく謎の幾何学物体を横目に、ゆりは大きく溜め息をつくと、諦めて自分の担当業務へと意識を切り替えた。
それから小一時間ほどが経過した頃。
「ふぅ、まあこんな感じかな! ゆり、3Dモデルの案がまとまったからそっちの端末に転送するよ。『超音速戦士ホークマン』だけじゃなくて、ついでに『電脳調理師サイバーコック』に出てくるあの二輪車も参考にしてみたんだ!」
「……後者は完全にあなたの趣味じゃない」
送られてきた設計データをゆりがホログラムウィンドウに展開した瞬間、そこに現れた異様なシルエットにゆりの目が点になった。
画面に浮かび上がっているのは、車両の先頭がまるで最新型新幹線のように鋭利に尖った流線形を描く、漆黒のフレームだった。ノーズの下部には頑丈そうな前輪が格納されている。
乗車位置となる胴体は通常のバイクとは比べものにならないほど遥かに長く、コクピット周りはまるで最新鋭戦闘機そのもの。搭乗者はほぼ水平になるレベルの深い前傾姿勢で跨り、操縦桿を握る仕様となっていた。
さらに車両の後部には、左右へ流れるような美しい傾斜を描く大型ウイングが取り付けられている。可動フレームを見る限り、戦闘形態(あるいは高速走行形態)時にはこれが大きく外側へ展開する仕組みのようだ。ウイングの下方にも後輪が備え付けられており、これによって「一応は二輪車」という主張をギリギリ保っている。
後方には、テールランプやターンシグナルランプといった一般的な保安部品が律儀に配置されている
――が、その真後ろにはガッツリと大口径のメイン推進器が鎮座していた。
よくよく構造を拡大してみれば、車体全体の至る所にご丁寧に姿勢制御用の補助スラスター口がいくつも組み込まれている。
一見すると、確かにタイヤが二つあるので「二輪車」に見えなくもない。
しかし、表示されているスペックデータと全体構造を総合して見れば――
【基本形態】 全長 3.0m / 全幅 1.2m / 全高 1.2m
【展開形態】 全長 3.5m / 全幅約3.0m / 全高 1.5m
それはバイクというより、陸上を地表スレスレで滑空する小型戦闘機そのものだった。
「ねえマリ、念のために聞いていいかしら。……これ、本当に『二輪車』の枠組みに入っているのかしら?」
ゆりが頭を抱えながら切実な疑問を口にするのも、まったくもって無理のない話であった。




