12-2 欠陥構造とエンジニアの矜持
12-2 欠陥構造とエンジニアの矜持
「――と言うわけでお二人さんには、この重装甲二輪車をぜひ製作して欲しいのだよ!」
渡辺譲二ことナベさんは、熱を込めて強調するかのように、静止させたアニメの重装甲二輪車の一幕をWeb会議の画面いっぱいに拡大表示した。
『これ、これだよ!』と言わんばかりの誇らしげなドヤ顔が、モニター越しにも痛いほど伝わってくる。
「ちなみに、作るのは通常モデルで構わないから変形機能までは再現しなくても良いよ。――もっとも、走行中に変形してくれたらなお最高なのだがね!」
ナベさんは画面狭しと身を乗り出し、まるで少年のような爛々とした瞳でマリとゆりに力説する。
「ナベさん、お言葉ですが……これ、動画をよく見ると左右に重装甲が大きく展開して二人が並列乗車する仕様になっていますけど、その展開状態だとフロントの操舵角が完全に死んでいて、構造上物理的に曲がれませんよ」
ゆりは動画のフレームを一時停止し、可動軸と車軸の矛盾を鋭く見抜いて的確に構造の欠陥を突いた。
「だからこそなのだよ! 前回の飛行ユニットの超小型スラスターや可変制御技術があれば、その手の走行・駆動系の物理的な問題も必ずクリアできると私は踏んでいるのだよ!」
ナベさんは、背後からバーン!とド派手な効果音が聞こえてきそうなほどの圧倒的な勢いで語り出す。
「リフターにフライヤー、果てはあの変態的な可変機構を備えたメガブースターまで、私の想像を軽々と超えて形にしてきたお二人さんなら絶対にできる。そう、私は固く信じているよ!」
(今日はなんだか、えらく熱く語りだすよね、ナベさん……。よっぽどこのアニメに対する並々ならぬこだわりがあるのかな)
マリはナベさんの熱弁に感化されたわけではなかったが、ゆりに「構造上、曲がれない」と指摘されたことで、逆に技術者としての挑戦意欲と血がフツフツと騒ぐのを感じていた。
「――なるほどね。ナベさんの言いたい熱い気持ちはよく分かったよ。よし、この無茶振り案件、うちのラボで正式に引き受けよう!」
「っ!? ちょっ、ちょっと待ちなさいマリ! そんなノリと勢いだけで簡単に引き受けてしまって本当に良いわけ!?」
マリが二つ返事で即決したことに対し、ゆりは甚だ懐疑的な目を向け、椅子を蹴らんばかりの勢いで慌てて詰め寄る。
「まあまあゆり、案ずるより産むが易しだよ! こういうロマンの追求ってやつはね、最初に悩むより勢いで飛び込むのが一番大切なのだよ!」
マリは心配性なゆりに向けて、余裕たっぷりにバチッと片目をウィンクしてみせた。
「さすがマリちゃん、実に話が分かるね! それじゃあかなりの無茶を言うけれど、期待しているからよろしく頼むよ!」
自分の要望が通って大満足したとばかりに、ナベさんは用件を終えると挨拶もそこそこに颯爽とWeb会議を切断してしまった。
「……相変わらず、とことん台風みたいに唐突な人だよね、ナベさんは」
プツンとブラックアウトしたモニタを見つめながら、マリは苦笑交じりに頬を指でボリボリとかく。
「……マリ、本当にそんなノリで引き受けて大丈夫なの……?」
いまだに不安と頭痛が拭えない様子のゆりの引きつった声が、静まり返った研究室に虚しく響くのだった。




