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12-1 ナベさんの無茶振りはロマンの風を連れて

12-1 ナベさんの無茶振りはロマンの風を連れて



「やぁ、おふたりさん。お疲れ様。元気でやっているかい」

Web会議の画面の向こうから、朗らかな笑顔とともに気さくな挨拶を投げかけてきたのは、販売製造部門の長――渡辺譲司、通称「ナベさん」だった。


「お疲れ様です、ナベさん」


「お疲れ様、ナベさん。こっちも相変わらず適当にやっているよ」


ゆりとクローディア(マリ)が、それぞれ手元の作業を一旦止めて画面越しに挨拶を返す。

すると次の瞬間、ナベさんはおもむろに机の上で両手を組み、顎から口元にかけてをすっぽりと隠すように指を深く交差させた。

あの、アニメや映画で嫌というほど見覚えのある、威厳に満ち溢れた「某総司令官風の思案ポーズ」である。


(……今日はいきなりだなぁ)


(また始まったわね。今日はいったい何を言われるのかかしら)


画面越しに解き放たれる無駄に圧倒的な黒幕オーラを前にして、二人は反射的に遠い目をせずにはいられなかった。


「前回の飛行ユニットの成果は、実に凄まじいものがあったよ。こちらでも実証テストを行っているのだが、現場や上層部からの評判も概ね上々だね。――さて、そこで今回の依頼なんだがね」

ナベさんは組んでいた手を僅かに緩め、前置きもそこそこに本題を切り出した。


「陸上を走行する、新しい『特殊車両』の製作を二人に頼みたいのだよ」


「……またなんだか、ずいぶんと大雑把で曖昧な依頼ですね」


「そうだよナベさん。別に今ある既存の車両でも性能的には十分じゃないのかな。わざわざ新しく作る必要があるほどの特別な理由でもあるかい?」


二人の疑問とツッコミは、エンジニアとして極めて至極正論なものだった。

わざわざラボの設備を使い、破天荒な頭脳を持つマッドサイエンティストのマリに個人的に外注するような代物とは、到底思えなかったからだ。


二人のもっともな質問を聞いたナベさんは、特に焦る様子もなく手元の端末を静かに操作した。

次の瞬間、共有ウィンドウの画面が切り替わり、一本の短い動画が再生され始める。

画面に映し出されたのは――『超音速戦士ホークマン』。


かつて昭和から平成初期にかけて放映された、三人の若者がサイボーグ手術を受け、異次元から地球へ襲来した侵略者と戦う伝説的ヒーローアニメであった。


映像の中では、鷹の姿を模したサイバーテイストな強化スーツを身にまとった戦士たちが、グロテスクな怪人相手に激しい空中戦や格闘戦を繰り広げている。


やがて場面が切り替わると、一人の戦士が漆黒の大型二輪バイクに跨り、凄まじいエンジン音を響かせながら敵の陣形へと突撃を開始した。


直後、走行中のバイクの各パーツが幾何学的な金属音とともに複雑にスライドし、車体が目まぐるしく変形を始める。


通常の二輪車形態から、瞬く間に全身が重厚なスロープ装甲に覆われ、全長も一回り巨大化した「重装甲戦闘車両」へと劇的な変貌を遂げたのだ。

動画は、そのマシンが敵の光線攻撃を弾き返しながら爆煙を突っ切る大迫力のカットでピタリと停止した。


「ずばり、この動画のような車両を作って欲しいのだよ」

渡辺譲司はふたたび顔の前で両手をガッチリと組み、口元を隠したまま厳かに、そして朗々と宣言した。


しかし、見せられた側からすれば、なぜ今アニメなのか、なぜ二輪バイクなのか、なぜ走行中に重装甲に変形させる必要があるのか――あまりにも突っ込みどころが渋滞しすぎていて、どこから手を付けたものか判断に困る状態だった。


「いやいや、ナベさん。私から言わせてもらうけど、わざわざ走行中に変形する必要なんてどこにもないよね? 最初から重装甲の車両で走ればいい話じゃないか」

マリの率直かつ技術者としての根本的な疑問は、至極ごもっともだった。


「それに、その車両をいったいどういったシチュエーションで、どこで使用するつもりなのですか? 防衛用としても運搬用としても、運用思想が支離滅裂ですよ」

ゆりの冷静かつ冷徹なツッコミも、完全にぐうの音も出ない正論である。


――だが、渡辺譲司という男は、二人からの鋭い正論ノックアウトをさらりと涼しい顔で受け流すと、思案ポーズを解いていつもの親しみやすい朗らかな笑顔へと戻った。


「あー、私の趣味だ」


画面の向こうで、パーン!と背景にド派手な効果音でも聞こえてきそうな勢いと満面のドヤ顔で、潔く胸を張ってみせるナベさん。


(――――えー……勘弁して欲しいんだけど……)


日頃は暴走する側と止める側で対立しているマリとゆりの心が、この瞬間ばかりは寸分の狂いもなく見事にシンクロしたのだった。

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