11-18 【プロジェクト完了】256人の遥×1時間=256時間分の超濃密データで開発完了!
11-18 【プロジェクト完了】256人の遥×1時間=256時間分の超濃密データで開発完了!
過酷? な飛行試験は、その後も順調に推移し、当初の予定通り活動限界時間の1時間まで丸ごと行われることになった。
1時間が経過すると、管制室から発せられたゆりの的確な指示に従い、
256人の遥たちが次々と地上へ向けて滑らかに着陸していく。
遥たちが装着していたフライヤーなどの装備は、
機体回収の際と同じようにその場で自分自身のシステム操作によって瞬時に収納されるため、
現場での面倒な後片付けや回収作業の手間すら一切発生しない。
すべての試験を完璧にやり遂げた遥達は、再び身軽なカーボンファイバースーツ姿へと戻り、
それぞれに今日の成果を胸に抱きながら地下の研究室へと引き揚げていった。
「ふむ、非常に良いデータが取れたね。
活動限界時間の1時間に至るまで一切の不具合もなく飛び続けるとは、
さすがは遥、相変わらずの疲れ知らずだねぇ」
ディスプレイに並ぶ膨大なログを確認しながら、クローディア(マリ)は満足げに頷く。
身近な例えをするならば、二輪車で休まず1時間連続走行した状態と言えばよいだろうか。
もしバイクに乗ったことがないのであれば、原付でも、あるいは身近な自転車でも構わない。
休みなく連続して1時間ペダルを漕ぎ続け、あるいは走り続ければ肉体にどれほどの疲労と負荷が蓄積するか、
その過酷さは容易に想像できるだろう。
「機体の連続稼働という点でも、これといって致命的な問題はなさそうね。
……さて、この調子でまだ試験を続けるのかしら?」
モニターの数値を冷静に見つめながら、クローディアの独り言にゆりが問いかける。
「うーん――、いや、これ以上の長時間耐久やフィールドテストは、
ナベさんのところでやってもらえばいいんじゃないかな。
今のところ、高速飛行における構造や制御への支障はなさそうだしね。
一般の人間が安全に、かつ普通に使用できるレベルへ微調整したのだし、
これ以上手間をかけるのは私たち開発部門の仕事じゃないよ」
そこには、256人分の遥によって同時並行で叩き出された、実に「256時間分」もの濃密な1時間飛行データが蓄積されていた。
クローディアが言う通り、膨大な時間をかけて自社で1から10まで気の遠くなるようなバグ探しや耐久試験を行っていたのでは、
いくら時間があっても開発スケジュールがパンクしてしまう。
そうした泥臭い量産前の実証やブラッシュアップは、
物量を動かせる専門の試験部門や運用部隊に任せるのが一番の近道だ。
もちろん、万が一そこで何か予期せぬトラブルが発生すれば、
ナベさんが血の涙を流しながら助けを求めて泣きついてくるところまでが、
お約束のワンセットなのだが。
「そう。じゃあ、今回のフライヤー開発プロジェクトは、これで無事に完了ということでいいのかしら」
ゆりが最終的な確認の意味を込めつつ、隣で伸びをしているクローディアに視線を向ける。
「そうだね! ナベさんに最初に依頼された『高速で安全に移動できるパーソナル飛行ユニット』の開発としては、
これで文句なしの完了と言っていいと思うよ」
「でもさ――これだけの代物が完成しちゃったら、
既存のリフターは完全に役目を失うのじゃないかしら。
どう見ても完全な上位互換機だものね」
身もふたもない、しかしエンジニアとしては最も核心を突く現実的なツッコミをゆりが放つ。
「いやいや、そこはナベさんの営業手腕やコストカット次第なんじゃないの。
例えば、機能を一部に絞って価格帯を安くした廉価版のリフターとして売り出すとか、
工夫次第でいくらでも住み分けはできると思うよ」
要するに、あとの面倒な販路や活用法はすべてナベさんにお任せだとばかりに、見事に軽やかな身のこなしで話をぶん投げるクローディア(マリ)であった。




