↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/365

0-12

「――撃て!」無線の奥で放たれた指揮官の鋭い破裂音と同時に、五つのビルの屋上で、極限まで集中を高めていた射手たちの指先が、一斉に『H&K PSG-1』の引き金を引き絞った。


バァァァァァン――ッ!!!静まり返った死街の空気を震わせ、五発の超音速弾が同時に漆黒の闇を切り裂いた。今回は、五チーム計十名の狙撃班が、徘徊する五体のうちの「同じ一体の個体」に対してすべての弾道を収束させる集中狙撃。狙った部位はそれぞれ、頭部、首、胸部、右腕、そして脚部。


結局のところ、人類の最高精鋭である彼らをもってしても、この物理法則を無視した不条理な敵に対しては、手探りで有効な攻撃部位を探っていくしかなかったのだ。


直後、七百メートルの彼方で、五発の鉛弾が標的の肉体へとほぼ同時に吸い込まれた。胸部と脚部、そして頭部への着弾は、怪物の表面に虚しい風穴を開けただけに留まった。しかし――残りの二発が、決定的な「有効打」となった。


右腕へと直撃した大口径の弾丸は、その不気味などす黒い腕を根元からもぎ取り、千切り飛ばした。さらに、首の細い結合部を正確に穿たれた個体は、自身の頭部の自重に耐えかねたかのように、首から上がボロリと地面へと転がり落ちた。


胴体から完全に切り離された『頭』と『手』。それらは地面に触れた瞬間、激しく蠢き、生々しい黒い粒子(霧)となって大気中へと霧散していった。


「――全弾命中! 標的、損壊!」スコープ越しにその劇的な結合崩壊を目撃した狙撃手たちは、確かな手応えに胸を熱くした。だが――それはあまりにも残酷な、人類側の致命的な勘違いだった。彼らは知る由もなかったのだ。


自分たちの放ったその完璧な一撃こそが、怪物の最も凶悪な生存本能を目覚めさせる「最悪のトリガー」であったことを。頭部と右腕を失ったその個体は、数秒の間、まるで痛みに悶えるかのように狂ったようにその場で激しくのたうち回った。


しかし、唐突にその不気味な狂乱がピタリと止まる。次の瞬間、首の無い胴体は、首があったはずの断面を正確に「七百メートル先」の射手のビルへと向け、猛然と、弾丸のような速度で走り出したのだ。


悪夢はそれだけに留まらなかった。まだ銃撃すら受けていなかった残り四体の直近のアノマリーたちが、仲間の頭と手が千切れ飛んだまさにその瞬間に、まるで電流を流されたかのようにビクッと一斉に身体を跳ね上げた。殺意の共有ネットワーク(群体知覚)が、瞬時に、そして完全に覚醒したのだ。


四体の個体は、目もない頭部をそれぞれの狙撃班が潜む五つのビルへと正確に割り振ると、千切れた個体と全く同じ爆発的な駆動速度で、コンクリートの大地を爆破するように猛烈に突き進んできた。その信じがたい光景を、高倍率のスコープで追っていた観測手が絶叫する。


「手と頭部の完全破壊を確認! 対象、粒子化して……いや、待て! 嘘だろ、奴ら、こっちを直視しているッ!?」観測手は、一部の部位を破壊して敵を完全に打倒したと信じ込んでいた。


しかし、七百メートルの距離を数秒でゼロにせんと突き進んでくる怪物の「異常行動」を網羅した瞬間、彼の卓越した戦術脳はすべてを悟った。――作戦は、完全なる任務失敗(全滅)のフェイズへ移行したのだと。


「撤収! 全班、直ちに狙撃地点を破棄し、ここから引き上げろ――ッ!!」狂気的な速度で迫り来る黒い壁を前に、即座に無線機へ向けて撤退の絶叫を響かせたのは、流石は修羅場を潜り抜けてきた国家の精鋭部隊と言うべき、神速の状況判断だった。


しかし――神の領域の殺意のトリガーを自らの手で引いてしまった彼らに、生きてこの戦場を逃れるという未来は、最初から一秒たりとも存在してはいなかったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。