11-1 【新プロジェクト始動】次なる課題は「高速移動用ジェットユニット」の開発!
11-1 【新プロジェクト始動】次なる課題は「高速移動用ジェットユニット」の開発!
「とは言え、相変わらずふわっとした指示よね」
「まあ、そこがナベさんらしいっちゃらしいけどね」
二人はナベさんの相変わらず曖昧な指示に、揃ってやれやれとため息をつく。
「それで、何か実際的なアイデアでもあるわけ?」
ゆりは考え込むような顔で、クローディアに尋ねる。
「んー、もう今あるのをそのまま使えばいいんじゃない?」
クローディアが事もなげに答えると、ゆりは怪訝な表情で聞き返した。
「マリ、それどういうこと? 今あるって……リフターのことかしら?」
「そう、それ! それをこうね、ちゃっちゃっといじれば出来上がりそうな気がするんだよ」
その返事を聞いたゆりは、あからさまにげんなりした表情を浮かべる。
「ちゃっちゃっとって……マリ、そんな簡単なものじゃないと思うわよ」
「ふふ、ゆり、思い出してみてよ。私達、既に数々の『飛行する失敗作』を生み出しているじゃないか」
「うっ……確かに。ナノスラスター武器のことね。あれを使うの? また壁に激突することになるわよ」
クローディアの言葉に、頭の中に蘇る数々の悪夢を思い出して、ゆりは露骨に嫌そうな顔をした。
「ふふっ、ゆりは難しく考えすぎなんだよ。まあ、ものは試しだしやってみようか」
そう言って、クローディアは軽やかに端末に向かい操作を始めるのだった。
「ところでゆり、さっきのナベさんの『装備をハンガーに入れる』って話、どう思った?」
端末を操作しながら、クローディアは先程の会議の話題を振る。
「そうね……私達は少人数だからこその盲点というか、その発想自体が無かった、というのが正直なところね。それに装備の洗浄や欠損なんて、考えもしなかったわ」
ゆりも、自分自身の一般常識がここに来て欠如していることに気がついていた。
『朱に交われば赤くなる』――まさか自分自身でそれを実感することになるとは思わなかった。クローディアの非常識な行動に毒されてきたのではないかと、不安を感じずにはいられなかった。
「装備の回収とか洗浄なんて、うちは遥がやってくれてるからさ。言われるまで気にもしなかったよ」
クローディアもそう言いながら先程の会話を思い出し、ぽつりとぼやくのだった。
そんな日常の会話を挟みつつ、改めてナベさんとのウェブ会議へと意識を戻す。
「さて、改めて二人に頼みたい。飛行できるもの、という曖昧な指示でここまでのものを用意できたのだから、次も期待しているよ。やはり『飛行』と言えば、高速移動もセットで必要だと思うのだ。なので次の課題は、ジェットのようなものをお願いしたい」
モニターの向こうでそう告げるナベさんの言葉を聞きながら、クローディアとゆりは(……あら? 意外と、と言っては失礼だけど、言っていることはまともね)と心の中でひそかに感心するのだった。
「ハンガーに至ってはこちらも想定外だったのだが……深く突き詰めていくなら、ハンガーに入っている装備は一体誰が補充・管理するのか、という話だね」
一息ついたナベさんは、さらに二人に新たな問いを投げかける。
「えっ、それは『はる』……いえ、私が入れているね」
クローディアは、うっかり助手の本名を口にしそうになり、慌てて言葉を飲み込んで言い直した。
「そう、そこなんだよ。よく考えてみてほしい。もしこれを実際の現場に導入したとなると、専用の部屋に何十個ものハンガーを並べることになる。それを毎回手作業で行うにしても、現場の人間にとってはかなりの労力になるはずだ」
「……言われてみれば、確かにそうですね」
頭の中で、巨大な部屋に装備がズラリと並ぶ光景を想像しながら、ゆりも小さく頷いた。
「単体運用や個人的に持ち運ぶ分には、今の形でもいい。だが、施設に敷設して運用するとなると話は別だ。背面に自動で装填できる機構が欲しいところだね。……まあ、ハンガー周りのシステムはこちらの仕事だから、お二人さんはそこまで深く考えなくていいよ。問題は、もうひとつの『洗浄』だ」
「洗浄……ナベさん、それって機体を洗うってことかい? 確かにシャワー機能は欲しいよね! 汗臭い感じも嫌だしさ、これで装着したまま身体も丸ごと洗えたら最高じゃないか!」
「ぷっ……ちょっとマリ、それ完全にあなたの個人的な要望でしょ。ナベさんが言っているのは、使った後の『装備』のメンテナンスのことよ」
自分本位なボケをかましたクローディアに、ゆりはすかさず容赦ないツッコミを入れる。
「ははは、そうだね、ゆりちゃんの言う通りさ。実際に使用した後の装備というのは、外側なら移動時の粉塵や汚れにまみれ、内側は着用者の汗をたっぷり吸い込んでいる。もし任務中で怪我でもしようものなら、血だって付着するわけだ……。例えるなら、学校の剣道の防具を思い出してほしい。誰が使ったか分からない、あの独特な汗臭さが染みついた防具のことだよ」
ナベさんのリアルな例えに、二人は思わず顔をしかめる。
「そんな汚れた状態のものを、次の人が気持ちよく着たいと思うかい? だからこそ、使用後には徹底的に洗浄する必要がある。そして洗浄が終わった後は、装備の細かい状態チェックも不可欠だ。破損状況によっては、パーツ単位での交換も出てくるだろうね」
これまでの二人は、装備が傷んだり壊れたりすれば、とりあえず回収プールに投げ込んで回収・リサイクルして終わり――という環境だったため、そこまでメンテナンスの現実まで気が回っていなかったのだ。
実際の現場では、装備が汚れるのは日常茶飯事であり、激しい運用で破損することだってもちろんある。壊れたからといって、すべて回収プールで一瞬にして新品同様に作り直せるこの特殊な研究所がイレギュラーなのであって、通常の現場でそんな芸当ができるわけがない。
「それにさ……破損して欠損扱いになれば、そのぶんの消耗品費としてまた予算で新調してもらえるからね。ふっふっふ……」
話をしながら、ナベさんは早くも何かを企むような怪しい笑みを浮かべ始めていた。
「……つまり、私達の次の課題は『高速移動用のジェット機体の開発』ということでよろしいでしょうか?」
ナベさんが始めている捕らぬ狸の皮算用を華麗にスルーし、ゆりはキリッとした表情で会議のまとめに入る。
「ああ、そうだね。お二人さんにはぜひそれをお願いしたい。ハンガー周りの自動装填機構は私の方で考えておくよ。それじゃあ、よろしく頼むね」
そう言って、和やかな雰囲気の中で今回の会議は無事に締めくくられたのだった。




