10-4 【試作1号】4ローター大型バックパック!「サギドローン」のプロトタイプ構築
10-4 【試作1号】4ローター大型バックパック!「サギドローン」のプロトタイプ構築
「ブーン……」
口で効果音を鳴らしながら、マリは室内の空中で小型ドローンを右へ左へと軽快に飛ばしていた。
決して遊んでいるわけではない。飛行ユニットの第一案として浮上したのが、まさにこの構造だったのだ。今や身近な空飛ぶ玩具や撮影機材として普及しているドローンだが、飛行メカニズムとしては申し分ない実績がある。
「やっぱり、まずはこれが一番手堅いと思うんだよ」
手元に戻ってきたドローンをパシッとキャッチすると、マリは隣にいるゆりへ誇らしげに差し出してみせた。
「4枚のローターを回転させて自在に飛ぶタイプね。たしかに構造を模倣するのは簡単だけど……人間のサイズにまで拡大すると、かなりの全幅になるわよ。それにローターのプロペラがむき出しだから、壁や障害物に接触したら一発で砕け散るわね。正直、危ないわ」
ゆりはマリから受け取ったドローンを手に取り、様々な角度から観察しながら冷静に欠点を洗い出していく。
「まあまあ、とりあえず一回試作機を作ってみようと思うよ」
受け取り直したドローンを机に置くと、マリは作業端末に向かって手際よく構想をデータ化し始めた。
「んー……なんかイメージと違うかな。あ、そういえば人間がそのまま乗り込むドローンって、実際に市販されてたりドローンタクシーの実証実験をしてたりするって聞いたような……」
独り言とも相談ともつかないマリの呟きにも、ゆりは作業の手を止めることなく律儀に付き合う。
「有人ドローンなら、もう普通に市販されているわね。プロ野球の九条監督が新体制の記者会見でドローンに乗って登場したのも有名な話じゃない」
何かと世間を賑わせる奇才・九条監督。彼の奇抜なパフォーマンスを思い出してクスリと笑みを交わしているうちに、マリの手元で「サギドローン」の原型データが手早く組み上がっていった。
「よし、出来たよ。ちょっと見てくれ」
マリが端末を操作してデータを転送すると、ゆりのサブモニターに立体的な設計案が映し出された。
ベースとなる『アオサギ』の背面に大型バックパックを装備させ、そこから前後左右へとアームを長く伸ばして計4枚のローターを配置した構造だ。
わかりやすく例えるなら、大きなリュックサックから4本の支柱が生え、その先に洗濯物の角ハンガーを取り付けたようなシュールな外観である。壁面接触時の破損を防ぐバンパーガードすら備わっていない、純粋な機能検証用の試作仕様だ。
「なるほど、こういう外観ね。了解したわ、これにHIMATを組んでみるわね」
ゆりはさっそくナノマシンによる制御プログラムを組み込むため、キーボードを滑らかに叩き始めた。マリは遥が淹れてくれた温かいコーヒーを片手に、ゆりの洗練された作業画面を興味深そうに眺めている。
それからしばらくして、試作機の調整データが完成した。
「よし、試作機の構築完了よ。プリンターに転送するわね。……遥、申し訳ないけれど、プリンターから飛行ユニットが出力されたら装備して、飛行テストをお願いできるかしら?」
ゆりは遥にテストの依頼を出しつつ、すささっと素早い動きでマリの方を振り返り、ぴたりと指を突きつけて釘を刺した。
「あとマリ。言っておくけれど、あなたがその試作機を装備して飛び立つのは絶対に禁止よ」
「げっ……えー、ゆり! それはないよ! 作っている時からすごく楽しみにしてたのに!」
マリはあからさまにうめき声を上げた。ゆりの察した通り、マリは自分が真っ先に試作機を背負って空中へ飛び出す気満々だったのである。
「ダメなものはダメよ。安全が確認できていない以上、遥に任せるわ。……もう、私に無用な心配をかけさせないで。お願いだから」
なぜ遥なら良いのか――それは、仮に飛行中にシステムが暴走したり撃墜されたりする万が一の事態が起きても、遥なら瞬時に『シラユキ』へ完全換装して安全に脱出できるからだ。
それはその場にいる全員の共通認識であったため、マリもあえて野暮な突っ込みは入れない。
何より、ゆりに真剣な眼差しでそこまで切々とお願いされてしまっては、マリとしても苦笑いを浮かべて素直に引き下がるしかなかった。




