10-1 【新章開幕】一人で着るにはめんどくさい!「一瞬で変身ヒーローみたいに装着できたら……」
10-1 【新章開幕】一人で着るにはめんどくさい!「一瞬で変身ヒーローみたいに装着できたら……」
「めんどくさいな……」
ぽつりと漏れ出たクローディア(マリ)の独り言を、隣にいたゆりの耳が目ざとく拾い上げた。
「何がめんどくさいの?」
「いやさ、これまで何度か『サギ』の装着実験を行ってきたじゃない? 毎回遥に手伝ってもらってどうにか着込んではいたけど……これ、いざ自分一人で装着するとなると相当大変なんだよ。ゆりだって一回着てみたから、あの煩わしさは身にしみて分かってるでしょう?」
向けられた問いかけに、ゆりは当時の悪戦苦闘を思い出したらしく、嫌そうに眉をひそめて頷いた。
「確かに……あれはなかなか骨が折れる作業だったわね。でも、それがどうかしたの?」
「んー……ほら、特撮の変身ヒーローみたいにさ、一瞬でパッと一式が装着できたら最高じゃないかと思ってね」
「ふむふむ……」と深く頷きかけたゆりだったが、その思考の途中で何かに引っかかるものを覚えた。思考の糸をたどり、ハッと目を見開く。
「あら。そこに『変身ヒーロー』なら、もう居るじゃない」
ゆりがすっと差し指を向けた先――そこには、二人をポカンと見つめる遥の姿があった。
「あ、本当だ。言われてみればそうだね。遥なら自分の意志で自在に装備を取り出せるんだった」
二人が視線を交わしながら盛り上がる横で、渦中の遥は状況が呑み込めない様子で不思議そうに首を傾げている。
「だけど……遥のその仕組み自体、謎理論の塊みたいなものじゃない。今の私たちの技術じゃ、とてもじゃないけれど再現なんてできないわね」
もちろん、だからといって「遥を解剖して構造を解明しよう」などという物騒な結論に至るはずもなかった。
ゆりの言う通り、名前を与えたその瞬間に、「遥」という存在は一つの個として明確に定義されている。
親から子へと最初に贈られる一生ものの贈り物――それが名前だ。
二人にとって遥は、すでに理屈を超えてかけがえのない大切な家族となっていた。
もっとも、生物学や医学の専門知識を持たない二人が仮に解剖したところで、その構造を理解できるはずもないのだが。
いずれにせよ、遥の命や身体を脅かすような危険な実験を行おうなどとは、二人の頭の片隅にすら微塵も浮かばないのであった。




