9-18 【大絶賛】「お二人さんに頼んで大正解だったよ!」ナベさん大興奮のWEB報告会議
9-18 【大絶賛】「お二人さんに頼んで大正解だったよ!」ナベさん大興奮のWEB報告会議
「おわーっ! すごい、凄すぎるよ、二人とも! まさかこれほどまでの代物を仕上げてくるとは……!」高セキュリティーのWEB会議ウィンドウの向こう側で、渡辺譲司は、いい年をしたおっさんであることを完全に忘れたかのように、両手を叩いて大はしゃぎしていた。
それもそのはず、自分がただの男のロマンと趣味で依頼したはずの追加装甲の案件が、既存の機体にパイルオンできる『アオサギ追加装甲仕様(仮)』だけでなく、最初から最適化された単体完成品としての製品版『アカサギ』として、二つの完璧なラインナップに化けて提出されたからである。
さらに、それらと完璧にスラスターリンクする専用の重量級オプション兵装カタログまでどっさりと追加されていれば、これが製造部門の責任者として喜ばずにいられるわけがなかった。
しかし、画面の向こうで身を乗り出して「すごい、すごい!」と大騒ぎしているおっさんをリアルタイムで眺めるのは、正直言って面倒くさいだけであった。
(……うわぁ、ナベさん、いつも以上にテンションが高くてうっとうしいなぁ。もう回線をぶち切っちゃおうかな)などと、失礼極まりないことを考え始めるクローディア(マリ)であった。
「――ナベさん、前回の報告書(第8章)の時点で『普通の人間が使うにはパワーが暴走して危険すぎる』としてオーダーメイド扱い(封印)にしていたスラスター装備の一連の白兵戦武器ですが、今回のアカサギの本体スラスターと点火タイミングを完全に電子同期させることで、生身の人間でも安全かつ本格的な運用が可能になりました。これにより、前線部隊が取れる戦術の幅は格段に広がったと思われます」そんなマリの横で、ゆりは至って冷静に仕様書をめくりながら、淡々と技術的な報告を入れた。
「また、アオサギなどの既存のサギシリーズ用に開発した、後付けのオプション追加装甲も同等の機能を完全に有しています。さらに、中間機種である『クロサギ』のフレームをベースにして新規設計することにより、単体製品版の『アカサギ』は、オプションを外付けで追加装備するよりも、はるかに安定した動作と長時間の連続稼働を確保できるようになりました。デメリットとしては、ベースコストがクロサギ基準になったのでお値段が少々張りますけれど……。それでも、最初は予算を抑えてアオサギを実戦投入した後から、現場の必要に応じてオプション重装甲のみをパーツ購入してアップグレードすることも検討できますし、運用の選択肢の幅が格段に広がったのではないかと判断します」
「くぅー! これだよ、これ! 流石は分かっているね、お二人さん! 現場に配備した後からでも必要に応じて自由にアップグレードが出来る! 良い、実に素晴らしい! しかも、予算に余裕があれば最初からその最強の兵装(アカサギ単体)をセットで直接選択できる! 現場に無駄なセット買いを強要しないというのも、組織の予算編成として非常にありがたいよ!」ナベさんは組んだ指の奥で、心底感服したように深く深く頷いていた。
分かりやすく例えるなら、最初に購入したデスクトップパソコンのようなものだ。しばらく使っていくうちに性能に不満を覚えたら、本体ごと買い替えるのではなく、中身のメモリを自分でパチパチと付け足して増設したり、ストレージをより大容量のSSDに交換したりして、自分の手で自由に「機能拡張」を行う。
あるいは、車やバイクのカスタマイズでも良い。後からナビやオーディオに不満を覚えたら社外品に交換してみるのも良いし、乗り込んでいくうちにタイヤがすり減ってきたら、今度はよりグリップ性能の高いハイグリップタイヤに履き替えさせて、走行性能を拡張する。
要するに、自分の置かれた環境や目的に合わせて、性能の拡張が後から自在に行えるシステムなのだ。当然、それを実行するには相応の追加費用(オプション代金)が掛かるが、その選択肢が「システムとして最初からあるのと無いのと」では、運用上、雲泥の差であった。機体を丸ごと買い替えるよりはるかに費用を抑えつつ、必要な部分だけの性能を極限まで尖らせることができる。それが、二人の天才が叩き出した真の解決策であった。
「いやぁ、本当にお二人さんに宿題を頼んで大正解だったよ! これで天野グループの鷺シリーズに、また大きな商業的魅力が増えたね。……よし! それじゃあ約束通り、今度美味しいお菓子を山ほど買い込んで、二人のラボに差し入れに行くからね!」終始ご機嫌な笑顔のまま、渡辺譲司はそう言って、大満足で今回のWEB会議を終了させた。ウインドウが閉じ、静寂が戻ってきた研究室。
報告会議という名の、ナベさんのテンションのお相手を無事に終えた二人は、打ち合わせをしたかのように、同時にハァ……と椅子へぐてーとだらけ始めた。
「……アオサギのサウナ問題(第7章)から、武器の魔改造(第8章)、そして今回のアカサギの開発まで……なんだかんだ、ここ最近はノンストップで色々と忙しかったわね」ゆりがコンソールから視線を外し、感慨深そうに呟く。
「そうだね。さすがの天才の私も、なんか頭を使いすぎて疲れたよ。……これでようやく、しばらくの間はゆりや遥と一緒に、何にも追われずにゆっくりとくつろげそうかな」クローディア(マリ)は大きく伸びをすると、ソファの背もたれに身体を深く預け、だらしなくまったりとくつろぎ始めた。
そんな脱力している二人の前へ、ドアを静かに開けて部屋に入ってきた遥が、トコトコと歩み寄って温かい湯気を立てるトレイをローテーブルの上へと優しく置いた。
「マリ、ゆり。コーヒーをどうぞ」
「ああ、ありがとう。ありがたく頂くよ」
「ありがとう、遥。助かるわ」遥が二人の好みに合わせて丁寧に淹れてくれた極上のコーヒーから、香ばしく芳醇な良い香りが、穏やかな光の差し込む研究室へとゆっくりと漂っていく。
スラスターの爆音が響き渡っていた試験場、今は嘘のように、水を打ったような静けさに包まれている。
研究室には、これ以上ないほど穏やかで平和な日常の時間が、ゆっくりと流れていくのであった。




