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0-9

デパート内の「餌」をあらかた喰らい尽くしたアノマリーたちは、広大な館内をどれほど徘徊しようとも、もはや生体反応が一つも残されていないことを察知していた。しかし、奴らの飢餓感は満たされてはいない。次なる獲物を求めるように、一体の個体が割れた窓から外を見下ろした。


――その漆黒の眼窩の先、ビルの遙か下方には、信じられないほど膨大な数の『新たな餌』が、過密なほどにひしめき合っていた。もし、アノマリーという異形に人間のような感情が存在したならば、それは狂喜乱舞して嬉々として踊り出していただろう。


手当たり次第に貪り喰ったとしても、しばらくの間は決して尽きることのない、圧倒的な質量のリソースがそこに転がっているのだ。言うまでもなく、それは警察の規制線を破って集まってきた、野次馬根性丸出しの無防備な一般市民の群れであった。


自分たちがいる建物のすぐ真下に、最高の餌場がある。その事実を認識した瞬間、アノマリーの一体が割れた窓枠に足をかけると、重力に従って地上へと躊躇なく急降下ダイブを敢行した。凄まじい風切り音を立てて新しい餌へと直撃する仲間を見届け、残りの個体たちもまた、ガラスの雨を降らせながら、下の獲物めがけて次々とビルから飛び降りていくのだった。


地上で暢気に覗き見に必死になっていた群衆の状況は、文字通り一瞬にして一変した。デパートの上層階から、太陽の光を遮るようにして、漆黒の怪物が降ってきたのだ。それも、一体ではない。五体もの巨大な悪夢が、同時に地上へと叩きつけられた。


凄まじい質量を伴って落下した黒い何かは、着弾と同時に周囲の人々を無慈悲に蹂躙し、牙を剥き始めた。もちろん、最初に落下の直撃を浴び、怪物の下敷きになった哀れな人間たちは、その瞬間に即死だった。


だが――アノマリーの真の恐ろしさを知る由もないまま、一瞬で圧殺された彼らは、この後に起きる地獄を見ずに済んだという意味で、むしろ遥かにマシだったのかもしれない。


本当に「最悪」の絶望を味わうことになったのは、その落下の直撃を紙一寸で免れた、直近にいた人々だった。何が起きたのか状況を1ミリも理解できないまま、目の前の怪物から伸びてきた黒い触手に、頭を、手を、身体を触れられ、生きたままドロドロに融解されて次々と体内へ呑み込まれていく。


「化け物だッ! 化け物が降ってきたぞ――ッ!!」その世の終わりを告げるような光景を間近で目撃した周辺の人間たちは、一瞬にして完全な恐慌状態(パニック)へと叩き落とされた。我先にと一斉に出口や大通りへ向かって逃げ出し始める群衆。しかし、思い出してほしい。


狭い空間に何千、何万という人間が密集した状態で、一方向に同時に凄まじい圧力がかかれば、そこに何が起きるかを。――それは、かつて2022年にソウルで発生した、あの凄惨な雑踏事故と全く同じ「人災の地獄」の再現だった。


怪物の恐怖から逃れたい一心で暴走する群衆は、前方にいる人間をドミノ倒しのように押し潰し、押し退け、倒れた人間の身体を躊躇なく踏み潰して進んでいく。人の圧力だけで内臓を破裂させて圧死していく者、床に転げて無数の足に踏まれ続け、肉塊に変わっていく者。現場には何台ものパトカーが臨場し、多くの警官が配置されていたはずだった。


しかし、その法と秩序の番人であるはずの警官たちすらも、アノマリーの圧倒的な『死の抱擁』の前に抗う術なく最初の餌食となって消え失せており、統制を失った現場は完全に血と絶望が渦巻く阿鼻叫喚の屠殺場と化していた。アノマリーの蹂躙と、人間自身の狂気による圧死。二つの地獄が交錯するなかで、凄惨な大捕食劇はさらにその規模を拡大していくのだった。

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