9-12 「生きているの!?」〜生きた心地がしないゆりと、呑気な天才二人組〜
9-12 「生きているの!?」〜生きた心地がしないゆりと、呑気な天才二人組〜
追加装甲のホバー滑空が無事に成功し、今度こそすべての動作確認が終了した。何事もなく、誰も怪我をせずに終わって本当に良かったと、ゆりがコントロールルームの椅子でようやく深く安堵しかけた――まさにその矢先に、それは起こった。
「よし、それじゃあ今度は、この盾のスラスター起動も行うよ!」インカムのスピーカーから、クローディア(マリ)のあまりにも間の抜けた能天気な声が聞こえてきたのである。ゆりも完全に盲点だったのだ。マリが左腕に構えている盾は、てっきりナベさんのデータからプリントしたばかりの「通常仕様の大楯」だとばかり思い込んでいた。
だが、その問題の盾は、つい先日の防具試験の際に、凄まじい大爆発と共に遥を弾丸のごとく吹っ飛べらせて、頑強な防壁へと豪快に激突させたあの魔改造スラスター盾だったはずだ。
「ちょっ、待ってマリ……! それは駄目――っ!!」ゆりが制止の叫び声を上げる間もなく、すべては一瞬で引き起こされた。ドゴォォォン!!!という凄まじい爆音と共に、試験場の中央で激しい土煙がブワッと舞い上がり、カメラの視界は一瞬にして真っ白に遮られて何も見えなくなる。ゆりは顔面蒼白になり、あまりの恐怖に両手を口元に当てて、モニターの前で呆然と立ち尽くしていた。はっと我に返ると、震える手でマイクを掴んで狂ったように叫ぶ。
「マリ! マリ、生きているの!? お願いだから返事をして!! 遥、大丈夫なの!?」ゆりの必死の呼びかけに対し、通信のノイズの向こうから、まずは遥のいつも通り涼しい声が返ってきた。
「はい、ゆり。問題ありません。マリも私の腕の中に無傷で保護しています」
「いやぁ……ゆり。心配をかけたね。私はこの通り、遥の神業キャッチのおかげで完全に無事さ!」その二人の呑気な返事を聞いた瞬間、ゆりは全身の力が一気に抜け落ち、糸が切れた人形のようにガタガタと椅子にもたれかかった。
「本当……っ、もう心配かけさせないでよ……! 生きた心地がしなかったわよ、バカ!!」
「すまないね、ゆり。どうしても実物の出力と、この重装甲の慣性制御が噛み合うかどうか、試してみたかったのさ」それはそうだろう。遥にすら制御不能だった、弾丸のごとくぶっ飛ぶあの狂暴なロケット盾を生身の人間がまともに装備して、無事でいられるわけが最初からないのである。あれは、個体が滅んでも一瞬で記憶が同期する人造人間(遥)だからこそ笑って済ませられる問題なのだ。
「あのね、マリ!? そういう危険な検証をやる前に、先に私へ事前に説明しなさいって言っているの!」
「いやさ、ゆり。それを言ったら、君は絶対に私を止めるだろう?」
「当たり前でしょう!! 止めるに決まっているわよ! あなただって数日前に目の前で見たでしょう!? 遥が大楯と一緒に豪快に壁へ飛び込んで、コンクリートを粉々に粉砕していたあの姿を!」
「いやぁ、この新型追加装甲のアシスト機構の減衰率なら、あの凄まじい突撃の反動も強引に相殺して制御できるかなぁ、なんて思ったのだけどね。……やっぱり無理だったようだ」そう言って頭を掻きながら、悪びれもせずけらけらと笑うクローディア(マリ)。
ゆりの本気の心配を余所に、どこまでも工学の限界への知的好奇心を優先させる相棒の姿に、ゆりは完全に疲れ果てていた。
「この馬鹿マリ。……はぁ。本当に、本当に勘弁してほしいわ」そう言って、ゆりはコントロールルームの天井を仰ぎ、この日一番の盛大で深い溜息をつくのであった。




