9ー10 【神制御】時空を跳び越える一瞬の加速と、完璧に慣性を殺す逆噴射自動停止
9ー10 【神制御】時空を跳び越える一瞬の加速と、完璧に慣性を殺す逆噴射自動停止
コントロールルームのゆりは、手汗を握り、心臓をバクバクさせながらクローディア(マリ)の実地稼働実験をモニター越しに見つめていた。ベースである『アオサギ』自体の駆動は、すでに先ほどの自分自身のテストによって100%安全かつ快適に動くことが確認済みである。
しかし、今回その上から新たに追加した重装甲と、全身に仕込まれた推進モジュールにいたっては、何一つ事前テストを行っていない。
いわば、完全なる前人未踏のまっさらな初期状態である。エネルギーの負荷や物理的な推進Gが加わった瞬間、一体何が起こるか分かったものでは無かった。
それを、世界最強の人造人間である遥ではなく、他でもないクローディア(マリ)自身が身を挺して行うというのである。確かに、一般の人間がテストしないと実戦用の重装甲(後のアカサギ)としての意味は無いと言ったのも自分であり、そしてそのテストを「私は絶対に死んでも着ないわよ!」と頑なに拒否してマリに押し付けたのも自分だ。
今、ゆりは「もしあのバカに何かあったらどうしよう」という、強烈な後悔と自責の念で胸がいっぱいであった。
基本動作の確認を全て無事に終え、いよいよ本命である恐怖のスラスター試験に入るようである。
どうか無事、何事もないまま無傷で終えておくれと、ゆりはモニターの前で祈らずにはいられなかった。
しかし、そんな管制室のゆりの悲壮な心境とは裏腹に、当のヘルメットの奥のクローディア(マリ)は、新しいおもちゃを手に入れた子供のようにご満悦であった。
「よし――スラスター、点火。行くよ!」ドンッ!!という短い爆縮音と共に、重装甲の背面から凄まじい閃光が走った。それは、体感にしてほんの一瞬。まるで時空を跳び越えて瞬間移動でもしたかのような、人間の常識を完全に置き去りにした異常な加速感覚であった。
カメラのフレームが一瞬だけブレたかと思った次の瞬間には、マリの巨体はピタッと慣性を完全に殺した状態で、5mほど前方の位置へと一瞬で前進して美しく静止していた。
マリの組み立てた「一定距離での逆噴射自動停止プログラム」が、完璧な神業として機能したのである。
「おっとっと……」クローディア(マリ)はヘルメットを左右に振り、バイザー越しに自分の現在位置と周囲の状況を確認する。
音速の踏み込みで真横にぴったりと追従してきていた白銀の遥の姿があるのも、先ほどと何一つ変わりはなかった。
肉体にかかるGも、アオサギの衝撃緩和システムによってほぼ無力化されている。
そして――天才マッドサイエンティストは、完全にこの異次元の機動の「味」を占めてしまったのである。
「うお、これはおもしろい……! いやぁ、最高に面白すぎるな、このステップ移動は!」そこからの試験場は、ゆりの心配を置き去りにしたお祭り騒ぎへと変貌した。マリはスラスターを激しく瞬間噴射しては、巨体を前進、後退、左右へと四方八方にチェス盤の駒のように高速でスライド移動させ、果てはゲームの動画さながらに上空へ向けて垂直に跳び上がり、そのまま重装甲で優雅に空中を滑空してみせる有様であった。
「いやぁ、よく出来ている! 私の設計に寸分の狂いもなく追従して、ここまで裏口のエネルギー管理仕事を完璧にこなすとは……。やっぱり流石だね、私の相棒は!」
ガシャン! ドンッ!と試験場を縦横無尽に超音速でスライドしながら、クローディア(マリ)は愛する共同開発者の有能さを心底称えるように、嬉しそうに独り言ちるのであった。




