9-3 3つ目の参考動画は『地球攻撃軍(防衛軍)』の重装甲スラスターダッシュ
9-3 3つ目の参考動画は『地球攻撃軍(防衛軍)』の重装甲スラスターダッシュ
「マリって普段はお茶らけているくせに、変なところで妙に生真面目よね。……まぁ、私からさらに現実的な感想を言うなら、そもそもナベさんの送ってきたその2つの動画は、どちらも本来の依頼の意図に全く合っていないわよ」ゆりは呆れたように肩をすくめると、画面を指差しながら、クローディア(マリ)の的外れな悩みを真っ向からバッサリとぶった切った。
「ナベさんが言っているのは、敵アノマリーの強力な一撃に当たってもびくともしないくらいの、純粋に防御力を高めた『強固な鎧』でしょう? 最初のバンダムだっけ。アニメの設定資料によると、あれって外側の重装甲に見える部分はただの大型燃料タンク兼、増加バッテリーらしいわよ。要は、内側の本体が超高出力のエネルギーを長時間保持するための『電池』を纏っているようなものね。2つ目のマクラスの戦闘機の方にいたっては、マリが自分で言った通り装甲ではなくただのミサイルコンテナ(兵装)よ。そもそも防御の概念が根本から違うのよ」
「えーっ!? そう言われてみれば確かにそうか……。なんだよそれ、ナベさん! この参考動画、設計のイメージとして何一つ意味がないじゃないか!」ゆりに構造の矛盾を理詰めで指摘され、自分の無駄な考察に対して画面の向こうの渡辺譲司へ理不尽に憤慨するクローディアであった。
しかし、ナベさんからの暗号化ファイルには、まだ続きの動画が残されていた。マリはぶつぶつと文句を言いながら、3つ目の動画ファイルを再生した。それは『地球攻撃軍』という、地球を舞台に突如襲来した異星人を人類が総力を挙げて迎撃する、大人気アクションシューティングゲームのプレイ動画であった。宇宙人の未知のテクノロジーによって巨大化させられた恐るべき昆虫(アノマリーを彷彿とさせる化け物)が地上を闊歩し、破壊の限りを尽くしている。
それを生身の兵隊たちがハイテク兵器で迎撃するという、世界観としては自分たちの現状に酷似した内容のようだ。動画に映し出されていたのは、そのゲームに登場する一兵科の戦闘シーンであった。全身をガチガチの重装甲で強固に固めた兵士が、巨大な近接武器を豪快に振り回し、規格外の重火器で巨大昆虫の大群を圧倒していく。だが、その画面の中で最も特筆すべきは、重装甲の常識を覆すその異次元の「移動方法」であった。
なんと、スラスター(推進器)による超高速の慣性スライド移動を行っているのだ。普通、これほどの重装甲を纏い、重量級の兵装を何個も担いでいれば、戦場をトコトコと鈍重に歩くのが物理的な限界である。
しかしその兵士は、重武装のフレームへ追加されたスラスター機能を巧みに吹かし、地面を滑るように縦横無尽にダッシュしていた。スラスターの瞬間的な推力を使い、前進、後退、左右の切り返し、果ては空中へ高く上昇してそのまま優雅に滑空すらしてみせるのだ。
予備知識なしで初めて見ると、誰もが「なんだこれは!?」と目を丸くするような、重装甲と超機動が矛盾したまま両立する驚異の戦闘スタイルであった。
「……なるほど。ナベさんは、今度こそこの重装甲スラスターダッシュを私達に求めているのかな」じっと画面を見つめていたマリが、今度は顎に手を当てて素直な感想を口にした。
「いや……ナベさん、なんかただ面白がって、自分の好きな動画を趣味で適当に入れているだけのような気がしてきたわ。冷静に見返しても、これらの動画に技術的な関連性が何一つ無いじゃない」それを聞いたゆりの、至極冷静で冷ややかなツッコミが研究室に響き渡る。
どうやら製造部門のトップ(ナベさん)は、純粋に「男のロマン(パージ、全弾発射、重装甲ホバー)」が詰まったお気に入りの動画を、ただ開発元の二人に自慢げに送りつけてきただけである可能性が極めて濃厚になってきた瞬間であった。




