9-1 発掘された黒歴史『ブレードアーマー(仮)』とナベさんの宿題
9-1 発掘された黒歴史『ブレードアーマー(仮)』とナベさんの宿題
「――ゆり、作った私が言うのも何だけど、これ本当に必要かなぁ」第8章の過酷な近接武器・防具のカタログ開発をようやく終えた研究室。
クローディア(マリ)はメインモニターに、かつて三章以前の暗黒期に自分たちの手で生み出され、そして無残に葬り去られたはずの古い設計ファイル――『ブレードアーマー(仮)』の三次元モデルを表示させながら、心底かったるそうに愚痴をこぼしていた。
「渡辺さんが必要だと思われたから、わざわざ正式な宿題として依頼されたのだと思うわよ」デスクの隣でログの整理をしていたゆりは、画面を見上げることもなく淡々と答える。
「いやさ、今こうして改めて見直してみると、自分で言うのもアレだけどあの時の私はどうかしていたのだろうね。何と言うか、全体的なシルエットがもう……絶望的にダサいな、これ」
「まぁ、初期の実験段階だったし、あの時のあなたは完全にその場のノリと中二病だけで突っ走って作ってたものだしね」画面に浮かび上がる、全身からこれでもかと凶悪なトゲトゲの刃を生やした狂気の失敗作を見つめながら、ゆりは苦笑を隠せずに答えた。
二人が何故、平和なコーヒータイムの直後である今になって、わざわざ過去の黒歴史とも言えるブレードアーマーのデータを引っ張り出して頭を突き合わせているのかと言うと、他でもない製造部門の責任者・渡辺譲司から直々に頼まれた「重追加装甲」の宿題があったからである。
『もちろん、この全身のブレード……トゲトゲの刃みたいな攻撃機能は、一般兵には危ないから要らないかな。……でもさ、このファイルにある重装甲の基本骨格のデータを、今度は『防御特化』に思い切り振って作り直してみてくれないかな? ……なんか私の勘だがね、これも化ける、行けそうな気がするんだよ。鷺シリーズの頑強な装甲の上から、さらにハードポイントを使って重追加装甲を重ねる……。うむ、何かこう、男の胸にグッと来るものがあるね!』ナベさんがWEB会議の向こうで身を乗り出しながら熱弁していた、あの追加装甲のロマン。
「たしかそんな事を力説していたし、しかも親切なことにナベさんから『こんなイメージで作ってほしい』っていう、設計の元ネタ(リファレンス動画)まで提供されたんだよ。……どれ、今から一緒に見てみようかね」マリはそう言って手元の端末を操作し、渡辺譲司から添付されてきた暗号化動画ファイルをメインモニターへと再生した。
スピーカーから激しい爆音と電子音が鳴り響く。画面に映し出されたのは、大昔に一世を風靡した往年の超人気ロボットアニメ――『機甲戦士バンダムφφ(ファイファイ)』のワンシーンであった。
それは『ソレシタラビーイング』という謎の私設武装組織が、最新鋭の人型起動兵器を擁して世界中の国家に真っ向から喧嘩を売るという、今見ても非常にエキサイティングな物語の、ある極限の戦闘シークエンスのようだった。画面の中では、黒くてゴツい巨体を誇る重装甲のロボットが、敵の罠に嵌まり、大群によって四方から物理的にガッチリと捕まりそうになっている絶体絶命のシーンが流れていた。コクピットのパイロットは、現在の重装甲のままでは肉薄した敵からの脱出が不可能であると瞬時に判断したらしい。
苦渋の決断による行動の様だ。
『――こうなったら仕方ない! バンダムナダレ!!』パイロットが悲痛な叫びと共にコンソールの中央にある緊急パージボタンを叩く。瞬間、ガシャァァン!!と凄まじい爆発ボルトの破裂音が響き、黒い銃装甲(追加アーマー)が全身から勢いよく切り離され、四方へと飛び散った。そして、パージされた分厚い装甲の硝煙の中から現れたのは――驚くほどに細身で、まるで細い糸の髪の毛を生やしたかのような、白い華奢な細身のロボットであった。
『バンダムナダレ、目標を消滅させる!』そう叫んで姿を現した白い華奢なロボットは、パージして地面に転がっていた黒い装甲側の超巨大な重火器を強引に引き剥がして両手に装備すると、自身を包囲していたはずの敵の機動兵器勢力を、圧倒的な機動力と火力をもって一瞬にして跡形もなく一網打尽に殲滅してみせたのである。
映像がフェードアウトし、動画の再生が終了した。
それを見たクローディア(マリ)は、椅子の背もたれにポカンと体を預けたまま、あまりにもストレートで、これ以上ないほど現実的な感想を口にした。
「……いや。装甲を外した(素の状態の)方が強いなら、最初の黒くて重い装甲、ハナから要らんだろ」前後の緻密なストーリーやドラマの文脈を一切考慮せず、ただ渡辺譲司から送られてきたその「ワンシーン(パージの瞬間)」だけを冷徹な科学者の視点(工学ロジック)で切り取った場合、マリの放ったその感想は、ぐうの音も出ないほど至極もっともな大正論なのであった。




