8-20 何食わぬ顔で提出される「普通のライオットシールド(裏の魔改造は秘匿)」
8-20 何食わぬ顔で提出される「普通のライオットシールド(裏の魔改造は秘匿)」
「――というわけで、これが現場の欲しがっていた防具、『盾』のラインナップの完成データだよ、ナベさん」メインコンソールの前に座ったクローディア(マリ)は、何食わぬ顔で通信回線を開き、そう言ってデータを転送した。天野財閥のメインサーバーへ送られたのは、最初にクローディア(マリ)が表示させた、何のギミックも仕込まれていない安全極まりない機動隊仕様のライオットシールドの製品データ(レディメイド仕様)である。
「おお、さすがだね! おふたりさん。まさかこれほどの短時間で、武器に続いて盾のカタログまで完璧に作ってくるとは……本当に驚かされるよ。……おや、ところでゆりちゃんはどうしたんだい? 画面に映っていないようだけど」メインモニターの向こう側で、渡辺譲司が満面の笑みを浮かべて尋ねてくる。クローディア(マリ)は肩をすくめ、視線を椅子の向こうへと向けた。
「あぁ……ゆりならさ、『もうツッコミ疲れた……』とか何とか言って、今は奥の部屋でぐったりと休んでいるよ」
「そうか、短期間でこれだけのデータ構築を頼んでしまったからね。私の無茶振りのせいで、ゆりちゃんに無理をさせちゃったかな。……よし、今度美味しいお菓子でもたくさん買い込んで、二人のラボに差し入れに行くよ」ナベさんの相変わらずの優しい気遣いに、クローディア(マリ)は「はは、それは楽しみにしてるよ」と苦笑いを返した。
「ナベさんの頼みだしね。ただ、さっき言っていたもう一つの宿題……『ブレードアーマー』の防御特化型の件は、ちょっと待ってほしいんだ。ゆりが完全に復活して、プログラミングやシステム調整の手を貸せるようになってから本格的に手を付けるよ」
「あぁ、そっちの追加装甲の案件は特に急ぎではないから全然構わないよ。よし、これで本格的に量産ラインのスケジュールが組めそうだ。マリちゃん、本当にありがとう。ゆりちゃんにも、無理をせずゆっくり休んでねとよろしく伝えておくれ」画面の向こうの渡辺譲司は、手に入った完璧な製品カタログを前に、心底嬉しそうに張り切っている様子だった。そうして満足げに頷くと、今回のWEB会議を終了させた。
「さて……これで私も、しばらくの間はゆりと一緒にゆっくり出来そうかな」通信が切れ、静寂が戻ってきた研究室。クローディア(マリ)は大きく伸びをすると、そのままソファの背もたれに体を深く預け、だらしなくまったりとくつろぎ始めた。
しばらくすると、ドアが静かに開き、元のインナースーツ姿に戻った遥が、温かい湯気を立てるコーヒーカップをトレイに乗せて部屋に入ってきた。
「マリ。コーヒーをお持ちしましたよ」遥はソファで完全に脱力しているクローディア(マリ)の前へと歩み寄り、ローテーブルの上に優しくコーヒーカップを置いた。
「ああ、ありがとう。ありがたく頂くよ」クローディア(マリ)はカップを手に取り、遥が自分の好みに合わせて淹れてくれた極上のコーヒーを口にして、ふぅと息を吐き出した。先ほどまで、ワイヤーカッターが飛び交い、10mの光の刃が天井を切り裂き、大楯のサーフィンによって凄まじい大音響が鳴り響いていた試験場だったが、今は嘘のように水を打ったような静けさに包まれている。
「遥、もう試験場の修理(ナノマシン修復)はすべて完了したようだね」
「はい、マリ。天井もクレパスも、すべてミリ単位で完璧に修復が完了していますよ」そう言って遥が手元の端末を操作すると、メインモニターに、新品同様にピカピカに元通りとなった試験場の広大なライブ映像が表示された。
「お、ばっちりじゃないか。傷一つ残っていないね、さすがだよ遥。……それでさ、どうだった? 今回の、槍から盾にいたるまでの過酷な一連の武器試験は、君たちにとって楽しかったかい?」クローディア(マリ)の何気ない質問に対し、遥はその綺麗な黒い瞳を穏やかに細め、人間と全く変わらない無邪気で健気な満面の笑顔を浮かべて答えた。
「はい、マリ。私(達)にとって、マスターの作った装備を動かすのは、どれも凄まじく楽しかったです。……本当を言うなら、もっと、ずっといつまでもやっていたかったです」その純粋すぎる、けれど人間の倫理の枠を少しだけ超えた戦闘型人造人間(群体知能)としての甘えの言葉に、クローディア(マリ)は「あはは、これ以上やったら今度こそゆりが心労で倒れちゃうよ」と笑うのだった。
奥の部屋で白目を剥いて倒れている約一名の被害者を除いて、研究室には、これ以上ないほど穏やかで平和な時間がゆっくりと流れていくのであった。




