8-16 発掘された黒歴史『ブレードアーマー(笑)』とシラユキの原点
8-16 発掘された黒歴史『ブレードアーマー(笑)』とシラユキの原点
「……なるほど。改めて聞くと、とんでもない相手なんだね、アノマリーというのは。だからこそ、その過酷な近接戦を生き残るための『鷺シリーズ』というわけか。……じゃあさ、やはり最強の『矛』には、それを支える最強の『盾』が必要だと思うんだよ。そういうわけで、盾の製作を改めて二人に依頼したいかな」
渡辺譲司の口から紡ぎ出された言葉は、これまでのアノマリーの戦闘生態を踏まえれば、至極当然の帰結であった。
「分かりました、ナベさん。盾のバリエーションも、すぐに製作に取り掛かりますね」
ゆりの返答が早かったのは、実戦の論理からして、遅かれ早かれ必ずそう依頼されるだろうなと、あらかじめ予想していたからであった。
「あとさ、過去の共有ログを漁っていたら、ちょっと気になる装備データを見つけたんだよ。……これだ」
渡辺譲司が手元のキーボードを叩くと、メインモニターの端に、ばんっ!と大きな擬音が飛び出しそうな勢いで、ある一つの古い設計ファイルが表示された。それは、かつて三章以前の不完全な実験段階で、マリたちの手によって生み出され、 そして無残に葬り去られたはずの『過去の失敗作』であった。
「……この、『ブレードアーマー(笑)』ってさ。なんでファイル名が(笑)表記になっているんだい?」
ナベさんが大真面目な顔で尋ねる。そこは開発当初、ゆりの手によって『ブレードアーマー(仮)』と表記されていたはずの場所だったが、いつの間にかクローディア(マリ)のいたずらによって「(笑)」へと改悪されていたのだった。
それを見た二人の口からは、ただ、ひたすら乾いた笑いしか出なかった。しかし、ナベさんは知る由もないが、その全身に無数のトゲトゲの刃を生やした狂気の失敗作こそが、現在の最高傑作である『シラユキ』を誕生させるための全ての原点なのである。そういった意味では、一概に馬鹿にすることも出来ない歴史的な遺物だった。
「ははは……ナベさん、それは大昔のただの失敗作だったのだよ。そもそもさ、全身が鋭利な刃で覆われた装甲服なんて、危っかしくて普通の人間は着れたものじゃないじゃないか」
マリは顔を引き攣らせて必死に言い訳をしながら、視線だけをすっと横に向けた。そして、自分の真横に静かに佇んでいる遥の姿を見て、心の中で強烈な突っ込みをカミングアウトするのであった。
(……まあ、目の前のこの子は、今まさにその完全進化版を完璧に着こなしているのだけどね!)
すでに過酷な試験を終え、アオサギの装甲やヘルメットをすべて外して元のインナースーツ姿に戻っていた遥は、マリから向けられた視線に気づくと、不思議そうに「きょとん」と小首を傾げた。彼女は、渡辺譲司とのWEB会議の最中は一切口を開かない。
人造人間としての存在そのものを天野財閥の上層部に秘匿しているため、外部の人間に自分の声を聴かれる訳にはいかないのだ。その徹底した「よく出来たお留守番ロボット」としてのフリが、今の状況では最高にシュールな沈黙を生み出していた。
「いや、私はこれ、コンセプトとしては非常に素晴らしいと思うんだよ」
画面の向こうで、渡辺譲司が興奮気味に身を乗り出してくる。
「もちろん、この全身のブレード……トゲトゲの刃みたいな攻撃機能は、一般兵には危ないから要らないかな。……でもさ、このファイルにある重装甲の基本骨格のデータを、今度は『防御特化』に思い切り振って作り直してみてくれないかな? ……なんか私の勘だがね、これも化ける、行けそうな気がするんだよ。鷺シリーズの頑強な装甲の上から、さらにハードポイントを使って重追加装甲を重ねる……。うむ、何かこう、男の胸にグッと来るものがあるね!」
(……それ、ただのナベさんの個人的な趣味とロマンじゃないのかしら……)画面の向こうで熱弁を振るう製造部門のトップに対し、ゆりとマリの二人は、全く同じ突っ込みを心の中で同時にシンクロさせているのであった。




