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8-15 「遠距離攻撃=即死確定の賭け」〜部隊全滅の裏情報と高周波ヘイト〜

8-15 「遠距離攻撃=即死確定の賭け」〜部隊全滅の裏情報と高周波ヘイト〜


「……まだあるんだよ。これ、遠距離武器とかは考えなかったのかい? ほら、銃とかを遠くからバーンって撃ったら、それだけで安全に終わりそうだと思うんだけどね」


渡辺譲司は、組んだ指の奥から、今度は純粋な戦術的疑問を投げかけてきた。それに対してクローディア(マリ)が、いつになく真面目なトーンで引き取る。


「あー、それは私から答えるよ、ナベさん。まず、過去の『デパート事件』の記録を詳細に解析するにさ、奴らアノマリーは遠距離からの攻撃、特に銃弾が放つ高周波や『銃撃』そのものに対して、過剰に反応して一斉にヘイトを集める傾向があるんだよ」


「それなら、最初から目標に向けて一斉に砲撃を浴びせて、跡形もなく吹き飛ばせば良いだけなのでは無いのかい?」


渡辺譲司のしごく真っ当な質問に対し、今度はゆりが冷徹な軍事データを元に回答を重ねた。


「確かに、現在の陸上自衛隊の歩兵部隊が取っている主な対処手段は、無反動砲を装備した一斉射撃による面攻撃ですが、その失敗時の被害も尋常ではありません。また、これは表に出ていない軍の裏情報なのですけれど……どうやら作戦に失敗した節が過去に何回か見受けられるようですね。……その失敗した作戦に参加した隊員の生き残りは、0人。つまり、部隊が丸ごと全滅しているようです」


『当たらなければどうということはない』


それを、人間の側の常識を超えた超生命体的な反応速度と質量で、アノマリー側がやってのけているのだ。アノマリーの特性を考えると、こちらの初撃(砲撃)がわずかでも失敗した時点で、その場にいる人間の「死」が確定することになる。攻撃する側も、一発のトリガーに対して極限まで慎重にならざるを得ないのが現状だった。


「遠距離からの攻撃は、こちらが一方的に安全圏から攻撃できるという大きなメリットがある反面、一度でも外せば自分たちの位置を群体知能に完全に捕捉され、死が確定する。……極めてハイリスク・ハイリターンな賭けなのです」


ゆりの答えを引き継ぐように、マリが続ける。


「なので、私達は確実に、肉薄した接近戦闘で奴らを仕留める手段(鷺シリーズ)を最初から考えた訳だよ。本体から切り離された部位は分子レベルで消滅(捕食)する。ならば、細切れになるまで至近距離で確実に切断してやれば良い。これは、過去のSAT(特殊急襲部隊)の攻撃記録からヒントを得たんだけどね」


「それなら、なおさらこの頑丈な鷺シリーズを一般の隊員に着せてさ、その上で安全に無反動砲を一斉に撃てば良いだけじゃないのかい?」


二人の話を聞く限り、渡辺譲司がその結論を思い浮かべるのは当然の帰結だった。だが、マリは力なく笑って首を振る。


「あはは。ナベさん、それじゃあ話しが最初に戻っちゃうよ。無反動砲のような重火器を街中でぶっ放せば、たとえ人死には出なくても、その一帯の環境破壊が尋常じゃないことになる。アノマリーを倒した後の戦場が、ただの不毛な廃墟になっちゃうよ」


「ナベさん、まだあるわよ」

 

ゆりが画面を睨む。


「あいつら、攻撃を受けると強力な群体知覚(スウォームインテリジェンス)を発動させるみたいなの。一体でも攻撃されれば、見えないネットワークで繋がった群れ全体が一瞬でこちらを認識して、まるで一つの巨大な意志のように襲ってくるわ。さらに悪いことに、攻撃を受けた群れ全体が、通常時の数倍に『凶暴化』するというデータも付け加えておくわね」


ナベさんは、ますます怪訝そうに眉をひそめた。


「それじゃあ、結局近接攻撃を仕掛けたって同じじゃないのかい? むしろ相手が狂暴化するなら、なおさら離れていた方が安全なんじゃないのかい?」


「ふむ、ナベさんの質問はもっともだね。ここは分けて考えた方が分かりやすいだろう」


マリが指を立てる。


「まず近接攻撃。これは別に、一人のヒーローが孤軍奮闘してやる事ではないんだよ。一体の敵に対して、複数人で囲んで当たれば良い。狂暴化を恐れるなら、後方で別のチーム(短槍や大槍持ち)に支援させれば良い。逆に、絶対にやってはいけないこと……それは、一度でも攻撃を仕掛けたら、完全に倒しきるまでに『絶対に敵を逃がさない』ことだ。近接ならそれができる」


「『狂暴化するなら離れていた方が良い』という疑問には、私から説明するわね」ゆりが画面の渡辺譲司を見つめる。


「マリの説明と被るけれど、アノマリー相手の戦闘では、視界(間合い)から外れた時点で相対した人間の負けなのよ。奴らは的確に、どれほど離れていようが『自分たちに一度でも攻撃を仕向けてきた獲物の場所』を正確に見分ける特殊な探知能力を持っている様ななの。……つまり、どれほど遠距離から撃とうが、察知された時点でその人間の死が確定するわけね。なら、最初から間合いを完全に潰して、確実に細切れにするのが一番生存率が高いのよ」

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