8-14 重厚なプレッシャーを放つナベさんの「ゲンドウポーズ」
8-14 重厚なプレッシャーを放つナベさんの「ゲンドウポーズ」
「――マリちゃん、ゆりちゃん。素晴らしい近接武器の数々を製作してくれて、本当にありがとう。これで我が天野グループが誇るアオサギやクロサギの商品カタログも、一気に賑やかになるよ」
メインモニターの向こう側で、満面の笑みを浮かべて至極上機嫌に答えている渡辺譲司。しかし次の瞬間、彼はフッとその笑顔を消した。
そのままおもむろに、机に両ひじをついて組んだ指の奥へと口元を深く隠し、顎を乗せるお馴染みのあのポーズをとった。武器の完成を心から喜んでいたはずの彼が、突如として態度を豹変させ、重厚なプレッシャーを漂わせ始めた。そのただならぬ雰囲気に、二人は一瞬にして防衛本能(警戒感)を極限まで跳ね上げた。
(……ちょっと、また何かあるの!? 何、今度は一体何なのよ……!)常識人のゆりは本気で怯え、ごくりと喉を鳴らして生唾を飲み込んだ。
(あ?、また始まったよ。ナベさん、本当にあのシリアスなポーズが大好きなんだからさ)
一方のクローディア(マリ)は、またいつもの悪い癖(格好いい演出のエンジョイ)が始まったなと、半分呆れたような眼差しで渡辺譲司の画面を見つめていた。
「……武器のラインナップ自体は、これで申し分ないんだよ」組んだ指の奥から、渡辺譲司の低く重い声が響く。
「恐ろしい性能だ。おそらく二人も、あの異形な怪物を確実に細切れにすることを想定して作ってくれたのだよね。……ただね、実際にその最前線の戦場に立って戦うのは、他でもない『生身の人間』なんだよ。機械やロボットではないんだ。人間なのだから、その時の体調もあれば、意気込みの差だってある。常に万全の精神状態で化け物と対峙できる訳では無いんだよ」
ナベさんのその言葉を聞きながら、ゆりはふと、自分たちの背後に佇んでいる遥の姿を横目で見た。
そして、普段の実験の最中には余計に感じることのなかった「決定的な異質さ」に、改めてハッと気づかされるのである。
ほぼ無敵に近い身体能力を有する彼女。さらに、仮にその戦術個体が目の前で無残に大破・消滅したとしても、次の瞬間には調整槽のスペアがダウンタイムゼロで主系へと自動昇格し、完璧に記憶を引き継いで目覚めるという不滅の冗長性。
――彼女(遥)には、そもそも人間が抱くはずの「死への恐怖心」という概念が、最初から存在しないのかもしれない。
「まぁ、不調や怯えがあっても、それをプロの技術でねじ伏せて戦うのが自衛隊やSATの精鋭なわけだけどね。……それでもやはり、怖いものは怖いんだよ。戦場における恐怖心というのはね、人間が自分で思っている以上に、筋肉を硬直させ、身体を動かなくさせてしまうものなんだよ」
その真剣な実戦の現実(心理的限界)の話を聞いた二人は、同時に、もう一度遥の方を横目で見た。(うん、恐怖心は1ミリも無いな)(むしろ毎回、スラスターで大車輪になりながら『凄まじく楽しいです』って笑顔で激突してるものね……)二人は全く同じことを心の中で考えていた。
「私の話が回りくどくなってしまってすまないね。……要するにだね」
渡辺譲司は口元から手を離し、真剣な眼差しを画面の二人に向けた。
「恐怖で身体が動かなくなった人間の盾となり、狂暴化したアノマリーの突撃を正面から受け止めるための……防御用の『盾』とかも、製品カタログには絶対に必要なんじゃないかな」
「「あ……」」
完璧なハーモニーを奏でるように、二人の天才科学者の口から、ただ一文字、間の抜けた声が漏れ出した。3章以前の不完全な実験段階では、確かに「剣と盾」を持たせていたはずだった。
それなのに、アオサギの原型を設計したときに「固定式の剣一本」へと極端な引き算をしてしまい、今の8章でも槍や斧やハンマーのドリル魔改造アスレチックに熱中しすぎたせいで、『一番重要な防具である「盾」の存在を、最初から丸ごと一切忘れていた』という、これ以上ないほど美しい手戻り(お約束)の炸裂。
二人は、伸ばしかけた指をコンソールの上に乗せたまま、乾いた冷や汗を流して完全にフリーズするのであった。




