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デパートの最上階に位置する管理事務所のなかで、店長の川端博司は、手元の書類を乱暴に机に叩きつけ、激しい苛立ち(いらだち)を募らせていた。
部下の柿谷修に「現場の状況を確認してこい」と言い放って部屋から追い出してから、すでにそれなりの時間が経過している。
しかし、待てど暮らせど状況は何一つ改善せず、進展の報告すら入ってこない。それもそのはずだった。川端も、そして今やこの世から消し去られた柿谷も、外のフロアで起きている事態の全貌を何一つ掴めていなかったのだから。
さらに間の悪いことに、他の事務スタッフたちはちょうど昼の休憩やフロアの応援に出払っており、この広い事務所には店長である川端しか残されていなかった。
静寂が満ちる部屋の中で、川端はふと、デスクの端に置かれた無機質な内線電話機に目を留めた。(……一体、下で何をもたついているんだ)川端は舌打ちをしながら受話器を引ったくり、2階の婦人服売り場、1階の受付カウンター、果ては地下のサービスカウンターへと、思いつく限りの部署へ片っ端から内線番号をダイヤルしていった。しかし――呼び出し音は虚しく鳴り響くだけで、どの部署の人間も、誰一人として受話器を取る者はなかった。
何十回とコール音が途切れた後、受話器を耳に当てたまま、川端の身体は凍りついた。大規模なデパートにおいて、すべての主要部署の内線電話に誰一人として出ないなどという状況は、平時では100%あり得ない。その冷酷な事実が、この建物全体で「すでに引き返せないレベルの異常事態」が発生していることを、彼の脳内に嫌というほど突きつけてきた。
言われてみれば、おかしなことはそれだけではなかった。いつもであれば、最上階の事務所にいても、連絡通路を往来する従業員たちの話し声や、カートを押す微かな騒音、足音などが少なからず壁越しに聞こえてくるはずなのだ。だが今は、信じられないほどの、不気味なほどの「完全な静寂」がデパートの最奥を支配していた。生き物の気配が、完全に消えている。
その異常な空間の拒絶を前に、川端の額から、タラリと冷たい汗が流れ落ちるのがハッキリと分かった。川端は激しく葛藤する。(……私も直接、何が起きているのかフロアを見に行くべきか? いや、しかし……私が部屋を離れた瞬間に、誰かが状況の報告を持ってここに駆け込んでくるかもしれない)そうやって都合のいい言い訳を頭の中で並べ立て、結局のところ、彼は恐怖から逃れるように自分の慣れ親しんだ店長机の椅子へと、這うように戻るのだった。
保身と正常性バイアスが、彼の足をその場に縛り付けていた。やきもきとした、心臓を削るような時間の経過。静まり返った部屋の中で、川端がじっと自分のデスクを見つめていた、その時だった。カチャリ、と。不意に、事務所の重い防音扉のノブが回り、静かに扉が開いた。




