8ー12 表向きの製品版(レディメイド)と暗躍する『遥専用・オーダーメイド品』
8ー12 表向きの製品版と暗躍する『遥専用・オーダーメイド品』
壁に深く突き刺さっていた失敗作の刀身を、ゆりが手元の端末でパージ命令(ナノマシンによる液体還元回収)を出し、綺麗に片付け終えたところで、二人は一度コンソールに向き合い、これまでに構築された全武器ラインナップの「仕様書」の整理に取り掛かった。
両手剣:全長2mにおよぶ、肉厚で幅広い長大な巨剣。製品版の仕様として、このサイズを収める「鞘」は物理的に存在しない。
そのため、そのままでは抜き身のまま不格好に行軍することになってしまう。この問題を解決するため、非戦闘時にはHIMATの磁気分子ロックを解除し、刀身の金属光沢を隠蔽して全体を「真っ黒な棒状」に変形させ、エッジ(刃)を一時的に消滅させるセーフティ機構を組み込んだ。
また、携行時の最大のネックとなるその巨大さについては、スーツ背部、または両肩のハードポイントへマウントする形式が妥当という結論に至った。
なお、実験のどさくさでマリが面白半分に作った「スイッチ一つで真っ二つに分割して超高速旋回させる合体式ツインブレード」のデータは、一般兵には危険すぎるため、すべて『遥専用・オーダーメイド品(最高機密)』として別枠でシステム処理されている。
片手剣:全長70~80cm。一般の兵士たちが戦場で扱う上で、最も手軽で取り回しやすく、間違いなくこれからの「一番の売れ筋(主力兵装)」になるであろう王道の剣である。
これには専用の鞘が標準装備されており、携行時は両腰のどちらかのハードポイントにカチリと固定して携行する。もし操縦者の適性が高ければ、両腰に1振りずつマウントしての「二刀流」の運用も可能となるだろう。
なお、マリの思いつきによって強度問題をナノマシン結合で強引にクリアした、あの触手のようにしなる変形連接剣――『蛇腹剣』のデータも、完全にオーダーメイド品の裏ファイルにハイドされた。
短剣:全長15~60cm。主兵装としては心許ないが、不意の接近戦や予備のバックアップ兵装としては極めて十全に機能する。「切ってよし、刺してよし、投げてよし」の万能な優等生だ。
スペースを取らないため、全身のどこのハードポイント(両腰、両脚、手の甲、あるいは胸部など)にも装着が可能。あらかじめ複数本を各部に仕込んでおき、中距離からの牽制用の投擲武器(使い捨てナイフ)として運用する戦術も大いに有りである。
なお、起動した瞬間に形状そのものをナノマシン再構成で変化させる『可変式レイピア』のデータは、オーダーメイド品として登録済みである。
大槍:全長3mを超える、超長大なヘビースピア。「……というか、この槍を構えて混戦の白兵戦をすること自体が、戦術的にすでに間違いな気がするわ」と、ゆりはモニターを見ながらバッサリと切り捨てた。
間合いの広さは圧倒的だが、アノマリーの群れに囲まれるような大混戦になった場合、振り回すこともできずただの長い邪魔者になるため、使用場面は城壁の防衛や後方からの局所突きなど、極めて限定的になるであろうと推測された。
槍:全長2m級の汎用スピア。元々は中世の馬上用の突撃武器がベースであるが、降りて白兵戦で運用した場合でも、その長さから繰り出される超高速の刺突を、敵アノマリーが完全に回避するのは難しいだろう。
ただし、間合いを維持して戦うには操者側にもそれなりの高い技量(間合いの管理能力)が必要とされる、玄人向けの装備である。
短槍:全長1m級のライトスピア。柄が極めて短いため、遮蔽物の多い狭い室内空間や、大混戦の渦中でも一切の引っ掛かりなく自在に振り回せるのが最大の売りである。
通常の槍よりもはるかに軽量なため、敵に向かって目掛けて投げつけ、そのまま使い捨てにするというド派手な投擲戦術も可能。装備マウント位置としては、その長さの都合上、背部か両肩のハードポイントを使用するのが妥当とされた。
なお、256人の遥たちが「魔女のホウキ」のようにして跨り、青白いプラズマを吹き出しながら時速数百キロで試験場を飛び回った、あの狂気の『ナノスラスタースピア』の全データは、一般兵が持てばただの自殺用ミサイルにしかならないため、当然のごとく裏の最高機密であるオーダーメイド品へと登録されている。




