8-11 ナノマシン【HIMAT】が実現した不可能の先〜完璧なる『蛇腹剣(連接剣)』〜
8-11 ナノマシン【HIMAT】が実現した不可能の先〜完璧なる『蛇腹剣(連接剣)』〜
起動した瞬間に刀身を前方へすっ飛ばしてしまうという、致命的な設計バグ。
その失敗をあっさりと認めたクローディア(マリ)だったが、彼女の天才的な工学脳は、すでに次なる魔改造の領域へと移行していた。思考のヒントになったのは、先ほど唯一成功したクレイモアの「別の形態へと移行する変形機構」である。
(分離させ、連動させ、再構成する。……そうか、その繋ぎ目を完全に制御できれば――)答えが見えれば、あとは持ち前の神速の手際で実行に移すのみであった。クローディア(マリ)は端末の画面をリズミカルにタップし、エラーの起きたブロードソードとダガーの構造プログラムを一瞬で書き換えていく。
そして、先ほど手元に「柄」だけを残して首を傾げていた遥たちを再び呼び寄せ、新たに実体化させた可変機構付きの剣と交換するのであった。
「よし、今度こそ私の本気だよ! スイッチを入れてごらん!」
まずはブロードソードを握った遥が、その手元で変形トリガーを引いた。瞬間、カチャチャチャジャン!と細かな金属の駆動音が響き、一枚の鋼鉄だったはずの刀身に複数の節目が入り、いくつものパーツへと精緻に分割された。
遥がそれを鋭く振りかざすと、ガシャァァン!と不気味な高周波音を立てて刀身が数メートルも伸び広がり、まるで生き物のようにうねりながら空気を切り裂く『蛇腹剣(連接剣)』へと姿を変えたのである。それは漫画やアニメといった創作物の世界で絶大な人気を誇る、架空のロマン武器そのものであった。
現実の世界においてこの蛇腹剣が実在しない理由は、至ってシンプルである。刀身を細切れに分割して節にしてしまうと、結合部の「金属強度」が物理的に保てなくなるのだ。
鞭のようにしならせることはできても、いざ敵の強固な装甲を切りつける瞬間に、バラバラになった節を元の「一本の硬固な剣」の強度へと戻して固定する再現が、現代の金属工学では不可能なのだ。しかし、ここは最高峰のナノマシン技術【HIMAT】が存在する世界である。
分割されたパーツの隙間を、流動する無数のナノマシンが瞬時に充填し、分子結合の電磁ロックを1億分の1秒単位で制御して強度を補強・復元する。だからこそ、鞭のように敵を絡め取り、次の瞬間には一刀両断の鉄塊へと戻る、完璧な可変連接剣がここに実現したのである。
続いて、短剣ダガーを渡された遥も変形スイッチを入れた。こちらの再構成(モジュール化)はもっと単純明快だった。トリガーが引かれた瞬間、手元に凝縮されていたナノマシンの分子構造が瞬時に伸長し、短剣のプロポーションそのものを、細身で刺突特化の洗練された『レイピア』へと組み替えたのである。
これもまた、質量と形状を自在に変化させるHIMATありきの超技術装備であった。間合いの狭い乱戦ではダガーとして扱い、隙を見てレイピアへと瞬時に変形させて敵の装甲の隙間を的確に貫く。戦況の「状況」に応じて最適な攻撃方法へと移行できる、これ以上ないほどスマートな可変近接兵器の誕生であった。
「わぁ……! 伸びる剣、凄く楽しいです!」
試験場で蛇腹剣をしならせて大はしゃぎする遥たちの動きを、クローディア(マリ)は満足そうに眺める。しかし、そのタイミングを見計らったかのように、進捗を確認しに管制室からゆりが試験場へと足を踏み入れてきた。
ゆりは歩きながら、ふと正面の壁に目を向け――そして、ピキリと眉をひそめて足を止めた。そこには、先ほどの実験でクローディア(マリ)が勢いよくすっ飛ばした、ブロードソードとダガーの『尖った刃の残骸』が、不気味なほど深く突き刺さったまま虚しく放置されていた。ゆりは冷たいジト目をクローディア(マリ)へと向け、突き刺さった刃の墓標を指差した。
「……ちょっと、マリ。あれは、何かしら。説明して」
「ふむ、実によい着眼点だね、ゆり!」
クローディア(マリ)は滝のような冷や汗を流しながらも、全く動じないフリをして、偉人の格言でも語るかのように堂々と胸を張ってドヤ顔で答えた。
「人間だれしも、偉大な成功の手前には、ちょっとした『失敗』を犯すこともあるんだよ。エジソンだってそう言っている。……大事なのは、そこから学びを得ることさ!」
「はいはい。ただ片付けを忘れて放置してただけでしょ」
やれやれと頭を抱え、すべてを察して諦めるゆりであった。




