8-10 両手剣の定義崩壊(クレイモア右手+ブロードソード左手)
8-10 両手剣の定義崩壊(クレイモア右手+ブロードソード左手)
試験場に配布された3種類の剣は、無駄な塗装など一切ない、鋭利な金属光沢と鈍い鉄の質感を放つ無骨な兵器そのものの姿をしていた。
だが、それを手にした遥たちの行動を見ていると、先ほど調べたばかりの歴史的な「両手剣の定義」とは一体何だったのかと、科学者二人の脳内に強烈な疑問符が浮かんでくるのであった。
「……ねえマリ。あの子、何をしているのかしら」ゆりがモニターを指差す。
そこでは、一人の遥が、本来なら大きなスイカ丸ごと一つ分の重量があり、大上段から全身の筋力で振り下ろさなければならないはずの両手剣クレイモアを、あろうことか右手一本で軽々と振りかざしていた。
それだけではない。左手には片手用のブロードソードを逆手に握り、マシンガンのような高速の突きを放ってくる別の遥の短剣の猛攻を、ガキィィィン!と冷徹な火花を散らして神速の受け流し(パリィ)で弾いているのだ。
そして、相手の体勢が崩れた一瞬の隙を見逃さず、右手のクレイモアをまるでストローか指揮棒のように滑らかに旋回させ、ブロードソードとの息を呑むような二刀流の連撃へと繋ぎ、切りかかっていた。
アオサギの絶大なパワーアシストと、256人の群体知能による空間制動が完璧すぎるせいで、歴史的な重さや隙の弱点が完全に無効化されている。遥たちにとっては、クレイモアすらただの「少しリーチの長い片手剣」に過ぎないのだ。
「あはは! 両手剣の定義がゲシュタルト崩壊を起こしているね! でもさ、これだけ遥たちの身体能力が規格外なら……ただ普通に斬り合うだけじゃ、やっぱり物足りないと思わないかい?」クローディア(マリ)は、格好いい二刀流の演武を見てまたしても悪い病気(ロマン工学)が再発した顔になり、性懲りもなく端末のコンソール画面を叩いてデータを改ざんし始めた。すぐさま3Dプリンターが作動し、クローディア(マリ)の歪んだ機能美の結晶である「3振りの魔改造された剣」が刷り上がっていく。
もちろん、それらはすぐに遥たちの手に渡されるのであった。
「よし遥、今度はその剣のスイッチを入れてみておくれ!」
クローディア(マリ)のインカム越しの指示に従い、遥たちが一斉に新ギミックのトリガーを引いた。まずは両手剣クレイモアを持った遥がスイッチを入れる。瞬間、カカカカン!と鋭い変形音が鳴り響き、巨大な刀身が中心から真っ二つに左右に分割された。
それは持ち手(柄)が瞬時にセパレートする合体式のツインブレードへと移行し、遥は左右の手で一対となった双剣を完全にコントロールして超高速で振り回し始めた。
これにはクローディア(マリ)も「うん、これは大成功だね!」と嬉しそうに頷く。しかし、悪夢は残りの2振りの方で派手に炸裂した。続いて片手剣ブロードソードを持った遥がスイッチを入れる。
すると、刀身の根元からバチバチと火花が散り、強固な鋼鉄の刃がまるで大型のハサミのようにパカッと左右十字の形に大きく裂け広がった。
(お、変形機構か?)とゆりが身を乗り出した次の瞬間、シュィィィン!と激しいナノ・スラスターの風切り音が響き、ハサミ状に裂けた刀身(刃の部分)が、ロケットのようにそのまま前方へと勢いよくすっ飛んでいってしまった。
刃は凄まじい速度で試験場の壁のコンクリートへ「ドスン!」と深く突き刺さる。そして当然、突き刺さったまま二度と手元には戻らなかった。
遥の手元には、刀身を丸ごと失った、ただの「持ち手(柄)」だけが虚しく残されることとなった。
戦闘開始直後に武器を紛失(丸腰)するという、致命的な欠陥である。さらにトドメと言わんばかりに、短剣ダガーを持った遥もスイッチを入れる。
こちらの構造はもっと単純で、トリガーを引いた瞬間に、持ち手の中の電磁ロックが解除され、刀身(ナイフの刃)だけがただの飛び出すナイフのように前方に勢いよく射出され、先ほどの壁の同じ場所に深く突き刺さった。やはり刃は壁に残されたままであり、手元には完全にスカスカになった柄だけが取り残される。
遥は手元の柄を不思議そうに見つめ、それから壁に刺さった刃を見つめ、「あれ?」という顔で小首を傾げていた。
敵を斬るための武器なのに、起動した瞬間に自分の大切な刃を前方にブン投げて丸腰になるという、最悪の本末転倒バグ。
壁に深く突き刺さって哀れに並んでいる二つの刃の残骸を見つめながら、クローディアはしばらくフリーズした後、いつもの大はしゃぎではなく、極めて冷静なトーンでぽつりと呟いた。
「……うん、失敗だね」
だが、ここで心が折れないのがマッドサイエンティストの執念であった。
クローディア(マリ)は「刃を飛ばして無くしちゃうなら、別の形に変えれば良いんだよ!」と目を輝かせ、失敗のデータを即座に次の入力へと活かすべく、さらに激しく端末の画面を操作し始めるのであった。




