8-8 「トンネル施工業者でも開くつもり!?」〜壁を穿ち地中に消えた遥ドリル〜
8-8 「トンネル施工業者でも開くつもり!?」〜壁を穿ち地中に消えた遥ドリル〜
防壁の奥から、ガガガガガと凄まじい地響きと共にと轟音(掘削音)が響き渡る。
「わはははは! これは面白い! いやぁ、本当に君は最高だよ、遥!」試験場にポッカリと開いた3つの大穴を指差して、お腹を抱えて笑い転げているクローディア(マリ)。
ゆりは、爆音で細かく振動する管制室の中で、そんな相棒を横目に「冷静になれ、私。ここでキレたら負けよ」と何度も自分自身に言い聞かせていた。だが、やはり限界だった。ゆりはマイクを掴むと、怒髪天を衝く勢いで絶叫した。
「遥! 今すぐその大惨事を止めなさい! 今すぐよ、命令です!!」ゆりの至極真っ当な指示に、ネットワークを繋ぐ地下の遥たちから、ノイズ混じりのインカムを通じて平然とした声が返ってきた。
「分かりました、ゆり。……システム、今停止しました」ガガガ……という重低音がピタリと止まり、しばらくすると、もうもうと立ち込める砂煙と3つの暗い丸穴の奥から、全身泥まみれになった3人の遥たちがトコトコと何事もなかったかのように帰ってきた。
「ちょっと、マリ! なんで武器のバリエーションを増やして、壁が綺麗に掘削される事態になるのよ!? あなたは対アノマリーの研究所を辞めて、ここへ新しくトンネル施工業者でも開くつもり!?」ゆりは本当に「もう勘弁して……」と涙目で神様にすがりたくなる気持ちであった。
憤慨するのも当たり前だ。こちらは軍事用の近接兵器のカタログ作成をしていたはずなのに、目の前に広がっているのは、ただのガチの土木工事の現場なのだから。
「なんでこうなったのか、言い訳を挟まずに最初から論理的に説明して頂戴」
「いやぁ、それがさ。真面目にメイスを作ったんだけどね。あまりにもただの鉄の棒で面白み(ロマン)が無いなと思ってさ。ちょっと足し算をしてみようと、先端にドリルを付けてみたんだよ」
全く悪びれもせずに、むしろ自分の画期的な発明を誇るように意気揚々と説明するクローディア(マリ)。
「何故メイスにド・リ・ルなんて付けるのよ! どう考えても不要でしょう、そんなもの!」
「そこは戦術的な発想の転換さ! 打撃武器だと相手に誤認識させておいて、実は恐ろしい刺突(掘削)武器でした、という騙しのオチ(戦術)なのだよ!」
「アノマリーはそんな高度な引っ掛けに誤認識するような生態じゃないわよ、このバカマリ! はぁ……もう、やれやれだわ。遥(達)、今すぐその壁と床を直しておいて」
ゆりは諦めて、まずは256人の遥たちにナノマシンによる修復指示を出してから、マリと今回のオプションカタログのデータをまとめる作業に戻った。
「えと……まず出来上がったのは、槍、斧、槌、そしてこの大惨事を起こした棍棒ね。被害の規模が毎回想定外すぎるけれど、まぁ……一応、ナベさんの頼んでいた『近接武器の定番』としての成果は出揃ったのかしら」
「うん、その認識で合っているよ、ゆり。RPGに出てくるような定番の武器は、これで一通り網羅できたと思うね!」
満足そうに頷くクローディア(マリ)の答えを聞いて、ゆりはふと、首をかしげた。
「……ねえ、マリ。一つ、確認のために聞いて良いかしら」
「なんだいゆり。改めてさ。あらかた仕事(データ構築)は終わったと思うんだけどね」
「はぁ……ねえ。マリ、思い出して。私達は、なぜ今この追加武器のカタログを作っているの?」
ゆりの本質的な質問に、クローディア(マリ)は不思議そうに小首を傾げて答えた。
「それは、ナベさんから製品版(アオサギ・クロサギ用)の追加武器の制作を頼まれたからだよね。それがどうかしたのかい、ゆり」
「あなた――『剣』はどうしたのよ?」
『まじで。面倒くさい。いやさ、支給された剣で大人しく切り合ったら良いじゃない。何を贅沢を言っているのだよ、現場の連中は。それにしてもだよ、現場が外したり無くしたりするから、わざわざ親切心で腕への固定式にしてあげたのにさ。それで不便だとか、勝手なことばっかり言ってさ。もう!』確かに、第8章の最初の最初で、クローディア(マリ)は自分の固定式の剣を棚に上げて、あれほど盛大に文句を垂れていたはずだった。
その歴史的な愚痴が、今になって完璧なブーメランとしてゆりの口から突きつけられたのだ。
ゲームの定番のジャンル(槍・斧・ハンマー・メイス)の魔改造アスレチックに熱中しすぎたせいで、兵器としての最重要基本パーツであるはずの『普通の持ち運べる剣』のデータを、最初から丸ごと一切作り忘れていたという、あまりにも美しすぎる特大のオチ。それを完全に思い出した瞬間。
「あ……」クローディア・マリ・天野の口から、ただ一文字、間の抜けた声が漏れ出し、研究室の時間が完全に停止するのであった。




