8ー7 戦術的歴史(50cm・80cm)からの斜め上すぎる進化
8ー7 戦術的歴史(50cm・80cm)からの斜め上すぎる進化
メイス――これまでのこん棒やハンマーから、さらに戦術的に進化した「打突系」の近接武器である。
その最大の特徴は、木製や鉄製の柄の先端部分(頭部)が、複数の強固な金属製のヒダ(フランジ)や突起によって強烈に強化されている点にある。中には、激しい打撃戦での破損を防ぐために、柄から頭部までを一体の金属で鋳造したオールメタル製のメイスも存在した。
13世紀以降のヨーロッパにおいて広く普及したこの武器は、当時台頭していた強固な「金属製の鎧」に身を包んだ騎士に対抗するために開発された歴史を持つ。
鋭利な剣では弾かれてしまう強固な装甲兜を貫くことこそ出来なかったが、その圧倒的な打撃質量により、鎧の上からでも内部の骨をへし折り、一撃で気絶させることが可能なほど、恐ろしい破壊力を秘めていた。
時には、乱戦の中で間合いから外れた敵への飛び道具として、力任せに投げつけて使われることもあったという。全長は50cm~80cm程と比較的コンパクトであり、馬上からでも扱いやすいサイズであったため、当時の戦士たちはメインの剣の補助兵装(併用装備)として、このメイスを腰に備えるものが急速に増えていった。
クローディア(マリ)は、これまでのハンマーの時と同様に端末の画面でメイスの戦術的歴史を熟考した後、アオサギの出力に合わせてメイスの基本データを構築した。
長さのバリエーションは、馬上用・歩兵用を想定した「50cm」と「80cm」の2種類。
これを試験場で遥たちに持たせて試験を行うところまでは、いつもの通りの堅実な開発プロセスだった。
そして、装甲服のパワーアシストによって鉄塊が激突し合い、そこかしこから鼓膜を震わせるおそろしい重低音の衝撃音が響き渡ってくるのも、いつも通りの光景であった。――だが、今回もやはり、クローディア(マリ)の工学脳は「ただの防具や鈍器」のままで終わらせることを拒んだ。
ゆりの期待(一抹の不安)を裏切らない、最凶のナノスラスターを搭載したクラブ(メイス)の完成である。
しかし、今回のクローディア(マリ)の改造は、これまでのスラスターによる直線加速の次元を遥かに超えていた。
柄の底(石突側)に仕込まれた推進用スラスターの他に、なんと、メイスの柄頭(先端部分)が超高速で螺旋回転する「巨大なドリル(回転尖閣)」が追加されていたのである。
(……ちょっと、マリ。すでに『打撃武器』は何処へ行ったのよ。原型を留めていないじゃないの……)と、ゆりが画面の死角で頭痛をこらえるほど、もはや何のジャンルに属するのかすら謎の、凶悪な形状をした新兵器になり果てていた。
クローディア(マリ)は「ふふん、今回は豪華に3個同時に作ってみたよ!」と言って、アオサギ姿の遥たちを3人手招きして手渡した。
そして本当の悪夢(大惨事)はまさにここから始まる。
武器を渡された3人の遥たちは、試験場のスタートラインに並び、メイスを前方へと水平に構えた。そして、全く同じタイミングで、ヘルメットのバイザーからナノスラスターの点火スイッチを入れた。スイッチが入った瞬間、メイスの先端に設けられた回転ドリルが強烈な高周波音を立てて超高速回転を始め、同時に、石突側のスラスターから爆発的なプラズマのジェット炎が噴射された。
次の瞬間、目にもとまらぬ超音速の推進力を得た3人の遥たちは、まるで人間魚雷(削岩ミサイル)のように一直線に前方へと飛んでいき、正面の防壁へと激突した。
――だが、そこで「ドカーン!」とぶつかって大惨事で終わらないのが、今回クローディア(マリ)が仕込んだギミック(お約束)の恐ろしいところであった。
壁に衝突した刹那、先端の超高速回転ドリル(回転尖閣)が、試験場の頑強な強化コンクリートを「ガガガガガ!!」と凄まじい音と火花を散らしながら、バターのように滑らかに穿ち始めたのだ。
そのまま壁に3つの綺麗な丸い大穴を開けた遥たちは、ブースターの推力に押し出されるようにして、防壁を完全にぶち抜き、その奥にある本物の「土の中(地中)」へとガシガシと潜り進んでいってしまったのである。
地響きを立てながら、ズブズブと地底深くへと突き進んで姿を消していく3人の少女たち。これぞまさに、戦闘用メイスの概念を完全に置き去りにして誕生した、究極の掘削兵器『遥ドリル』の完成の瞬間であった。




