8-5 更地と化した試験場のミリ単位修復命令
8-5 更地と化した試験場のミリ単位修復命令
「――マリ。説明しなさい。これは、一体、どういう事かしら?」
大惨事を繰り広げた後の試験場に立ち、ゆりは完全に引き攣った笑顔で、地を這うような低い声を絞り出した。
そこはもはや元の試験場の面影はなく、256人の遥たちがハッスルしたせいで、コンクリートの床には無数の切り傷と巨大なクレーターが開き、地面がぐちゃぐちゃに抉り取られた凄惨な更地と化していた。
「あははは! いやぁ、つい、ちょっとスラスターの数値を弄ったら面白くなっちゃってさ。……やっちゃった」当のクローディア(マリ)は、全く悪びれる様子もなく、舌をぺろっと出して「てへぺろ」のポーズを決めてみせる。そして、この大やらかしを仕でかした張本人たちである遥たちの側はと言うと……。
「マリー、あの空中での回転、凄まじく楽しかったです」
「ゆり、地面が面白いように抉れて本当に楽しかったです!」
256人の群体ネットワークを繋ぐ彼女たちは、全く懲りる様子もなく、むしろ目をキラキラと輝かせて満足そうに報告し合う始末であった。
ゆりはこめかみに青筋を立てながら、まずはこの悲惨な状況になっている試験場を遥たち自身に直させることにした。
「はいはい、楽しいお喋りはそこまで。遥たち、今すぐナノマシンを使って、その抉れた床をミリ単位で完璧に修復(お片付け)しなさい」
「分かりました、ゆり」
遥たちが黙々とコンクリートを再構成し始めるのを横目に、クローディア(マリ)はホログラムのデータを保存する。
「よし、これで斧のテストも終わりだね! このナノスラスターアックスは、完璧な『ネタ武器(最高機密)』として裏のサーバーに登録しておこう!」
「絶対にやめておいた方が良いわ。ナベさんのところのテスターがこんなの持ったら、この凄惨な試験場の有様を戦場でそっくりそのまま再現して自滅するだけよ」
ゆりは至極もっともな、科学者としてのド正論をぶつける。だが、クローディア(マリ)はフンスと鼻を鳴らした。
「大丈夫さ、ゆり。これはカタログに載せるレディメイド(既製品)じゃなくて、私たちの遥専用の『オーダーメイド品』扱いなんだから問題ないだろう」
ゆりの言葉を聞いているのかいないのか、クローディア(マリ)はそのまま楽しそうにコンソールを叩き、次の議題へと話を進めてしまう。
「さて、近接の定番武器と言えば……あとは、重質量で叩き潰す『ハンマー(大槌)』とか、トゲ付きの『こん棒』あたりかな!」その単語を聞いた瞬間、ゆりの脳裏に、さらなる悪夢の再現(天丼)が実行される未来のログが明確にシミュレートされた。ゆりは先回りして、必死にクローディア(マリ)の暴走を牽制する。
「ちょっと待って、絶対にやめてよね! どうせまた『ナノスラスターハンマー』とか『ロケットクラブ』とか言って、武器の後ろに推進器を仕込んで、遥たちを人間ミサイルみたいに飛ばすつもりでしょう!?」
「――おや、ゆり。君もずいぶんと分かってきたじゃないか! 遠心力にロケットブースターの直線推力を足す……それ、最高に面白そうだね! 採用しよう!」
「あ……」ゆりは、自分の放った牽制の皮肉が、あろうことかクローディア(マリ)の狂気的な工学脳に新たなロマンのガソリンを注ぎ込み、自分で自分の墓穴を掘ってしまったことに気がついた。
こうなると、この暴走特急は誰にも止められない。ゆりは「はぁぁぁ?……」と、魂が抜けたような深い、深い溜息をついた。
「もう、好きにして。私は止めたからね。……本当に止めたからね」
完全にツッコミの限界を迎え、すべてを諦めた「諦観」の表情を浮かべるゆり。
「ふふふ、これはまた素晴らしく面白い実験になりそうだ!」
完全に興奮のスイッチ(興)が入ったクローディア(マリ)は、嬉々として次の狂気の鈍器の設計を爆速で始めるのであった。




