8ー3 全遙(256人)へ配布された裏データ『超音速ミサイル槍』
8ー3 全遙(256人)へ配布された裏データ『超音速ミサイル槍』
クローディア(マリ)がその場の思いつきで出力した「ナノスラスタースピア」は、何故か256人の遥たちの間で爆発的な大好評を博してしまった。ワラワラと群がって「私にもください!」と目を輝かせる彼女たちにおねだりされ、結局、クローディア(マリ)は256人全員分のアオサギ用スラスター槍を出力して配りきってしまった。
「私はもう知らないわよ、それ。普通の人間があんな超音速ミサイルホウキを持ったら、一瞬で制御を失ってどうなるか分かっているでしょうに」
「ふむ。まぁ、これだけ遥たちが喜んでいるんだし、一種の『ネタ武器』としてありかな。アオサギの最高機密(オーダーメイド品)としてデータ登録しておこうか」
頭を抱えるゆりの冷静な突っ込みを右から左へ受け流しながら、クローディア(マリ)はおもしろそうに端末のコンソールを操作し、バックグラウンドの裏データとして保存した。
もういちいち突っ込むのも時間と精神の無駄だと悟ったゆりは、溜息混じりに話を本来の目的(カタログ作成)へと進めるべく、クローディア(マリ)に画面を向けた。
「スラスター槍の件はこれで終わりよ。次はどうするの。RPGの定番で考えるなら、槍の次は『斧』あたりかしら」「斧か! よし、次は斧にしよう!」ゆりの提案に意気揚々と乗っかったクローディア(マリ)は、再び楽しそうに自身の端末に向き合い、画面をタッチしながら操作し始める。
ゆりはそのあまりにも迷いのない背中を見つめながら、早くも胸の奥に不穏な一抹の不安を覚えるのであった。
ゲームやファンタジー作品で出てくる「斧」と言えば、バトルアックス、トマホーク、バルディッシュ、ハルバード、ポールアックスあたりが主流だろう。
片手で扱える小ぶりなものから、両手で持たなければ引きずってしまうような巨大な両刃の斧、あるいはブーメランのように投げて飛ばす暗殺用の斧(投げた後で拾いに行くのが致命的に大変そうだが)まで、柄の長さや刃の形状によってその種類は多岐にわたる。
クローディア(マリ)も流石に、今回は最初のファーストステップとして、無難に片手で扱える小柄な片刃の斧を選択した。
全長60cm、刃の大きさは20cm程。アオサギの強力なパワーアシストとHIMATの姿勢制御があれば、一般兵でも容易に片手で振り回せるであろう堅実な設計データだった。
しかし、実際に3Dプリンターで出力されたその『バトルアックスの試作機』をクローディア(マリ)が生身の手で持ち上げてみた瞬間、彼女は眉をひそめた。
数値上は完璧に見えても、実際に生身の人間が持つと、絶望的に「重くて短い」のである。
「……これは、間合い(長さ)が無い分、敵アノマリーの懐まで肉薄して超接近戦をせざるを得ない兵器なのか。その代わり、このズッシリとした質量がある分、一度でも当たれば切断力と一撃の威力は凄まじそうだが。ふむ」
工学の天才らしく瞬時に間合いのデメリットを見抜いたクローディア(マリ)は、すぐさま端末を操作して、今度は柄を限界まで長く伸ばした長柄の斧――いわゆる『ポールアックス』の設計データを構築した。
全長1.5m、刃の大きさは先ほどと同じ20cm。クローディア(マリ)はさっそく、刷り上がったその2着目のポールアックスを手に持ってみることにした。画面に表示された実重量は、およそ2kg~3kg。
ただの数値で言われても生身の人間にはピンと来ないため、身近なもので例えるなら、2kgは2リットルの巨大なペットボトル丸ごと1本分。3kgなら1.5リットルのペットボトル2本分に相当する。これを「1.5mの長い棒の先端」にくっつけて片手で保持するのだ。
先端にすべての重量が偏っているため、筋力のない生身の女性であるクローディア(マリ)の手首には、テコの原理でペットボトル数本分以上の凄まじい重負荷がズシリと圧し掛かる。片手で持つには少々つらい重さであり、これほど長いと狭い室内で取り回すのも一労しそうだった。
「なるほどね、人間が持つとこういう重心のブレが起きるわけか……。よし、遥(達)!」
クローディア(マリ)は自分の生身での検証を終えると、試験場で待機していたアオサギ姿の遥たちを呼び寄せ、新たに完成した2種類の斧――『バトルアックス』と『ポールアックス』を、それぞれの手に取りに来させるのであった。




