8-2 槍(短槍・標準・大槍)の実体化データテスト
8-2 槍(短槍・標準・大槍)の実体化データテスト
二人の目は完全に死んでいた。本音を言えば、心底どうでも良い、というのが二人の率直な気持ちであった。
「まじで。面倒くさい。いやさ、支給された剣で大人しく切り合ったら良いじゃない。何を贅沢を言っているのだよ、現場の連中は」自分の過去の適当な設計を完全に棚に上げて、クローディア(マリ)は手元の端末を睨みながらぶつぶつと愚痴をこぼしていた。
「まぁまぁ、ナベさんの言っていることも理にかなっている事だし。HIMATの暗号化の仕様上、どうしても私達にお鉢が回ってくるのは仕方ないわね」
「そうは言うけどさ、ゆり。これ、膨大な武器データだよ? 過去のボツ案のログを洗うだけでも、見るのが嫌になるよ」
「はいはい、子供みたいに愚痴らないの。別に世界中のすべての武器を作らなくても良いのよ、ある程度ジャンルを絞りましょう」いつまでもヘタれているクローディア(マリ)を、ゆりは手際よくあやしながら、プロジェクトマネージャーとして適切なアドバイスを提示した。
「そうね……。たとえば、ゲームとかRPGでよく出てくる定番の武器あたりから手を付けてみたら良いんじゃないかしら」
「ゲームかぁ! それなら分かるよ! 槍とかハンマーとか、トゲトゲのこん棒とかだよね。……わぁ、なんか急に燃えてきた!」ゆりの見事なコントロールにより、クローディア(マリ)のオタク心とモチベーションの導火線に一瞬で火がついた。マリの転がし方を完璧に熟知しているゆりである。
「それにしてもだよ、現場が外したり無くしたりするから、わざわざ親切心で腕への固定式にしてあげたのにさ。それで不便だとか、勝手なことばっかり言ってさ。もう!」怒ったり喜んだり、とにかく感情の忙しい彼女である。
「はいはい、怒らないの。まずは『槍』なんてどうかしら」ゆりは慣れた手つきで軌道修正を行い、マリの端末の共有フォルダへ、かつての試験体用のプロトタイプ槍の基本データを流し込んだ。
「へぇ、槍と一口に言っても、短槍、普通の槍、大槍と、色々種類があるんだね」クローディア(マリ)は端末の画面をスクロールさせながら、歴史的な分類を読み上げていく。
短槍:全長が約1m~2mほどと短く、狭い場所でも取り回しやすい。
槍:全長が約3.6m(二間)ほどある、戦場での標準的なサイズ。
大槍:全長が3mを遥かに超える、非常に長大で重量のある槍。
「じゃあ、このデータを元に、槍をそれぞれ1m、2m、3mの長さで実体化させてみようかね!」目が輝き始めたクローディア(マリ)は、そのまま楽しそうに端末のコンソール画面をタップし始めるのであった。
こうして、槍を1m、2m、3mそれぞれの長さに3Dプリンターで製作し、試験場で遥たちに持たせてデータ取りのテストを行うことにした。
「本当に切り合う必要はないからね。後、突くだけじゃなくて、叩いたり投げたり、思い思いに振り回してみてほしいかな!」クローディア(マリ)がインカムで説明すると、試験場に整列していた遥たちに、それぞれの長さの新型の槍が配られていく。
ちなみに、遥たちの装備は、データ送信一つで一瞬にしてダークブルーの量産仕様【アオサギ】へと変更してもらっている。衣服を着替える手間すらなく、データの同期だけでカラーも仕様も瞬時に変えられる、相変わらず極めて便利で有能な遥たちであった。
試験場に散ったアオサギ姿の遥たちは、主人の指示通り、実につまらなそう……いや、思い思いに楽しそうに振る舞い始めた。大中小の3本の槍を贅沢にすべて小脇に担いで、嬉しそうにダッシュしているもの。
試験場の端に設置された的に目掛けて、凄まじい風切り音を立てながらひたすら槍を投擲しているもの。長い槍を地面に突き立て、まるで棒高跳びの要領でピョンピョンと空中を跳んで遊んでいるもの。
1対1でビシバシと本格的な槍術の模擬戦を行っているものや、数人のグループに分かれて高度なチーム戦(連携戦)のシミュレーションを行っているものまでいた。
それらのはしゃぐ遥たちの光景をモニターで見ていたクローディア(マリ)は、またしても何か良からぬことを閃いた顔になり、ニヤニヤと笑いながら手元の端末を操作し始めた。
すぐさまプリンターから「それ」が出力される。それは、先ほど配った大中小の槍の『石突(お尻の部分)』のハードポイントへカチッと装着できる、穴の開いた特殊な金属製の筒であった。
それを見たゆりは、瞬時に最悪の予感を察知した。
「ちょっとマリ、それ、シラサギの時と同じ二の舞よ。……私、絶対に言ったからね!」ゆりの絶望の警告である。
しかし、それを聞いているのかいないのか、クローディア(マリ)は楽しそうに遥を3人手招きして呼び寄せ、その筒をドッキングした槍を持たせた。
操作は至極簡単。ヘルメットのバイザー越しに音声入力するか、あるいは視線入力でシステムのトリガーを引くだけ。物理的なスイッチを付けると、激しい戦闘で破損して誤作動(事故)を起こすのが怖かったため、あえてオミットしたスマートな設計だ。そして、その槍を持たされた遥たちはと言うと……完全に、その「機能」を満喫していた。
石突の筒――すなわち【ナノ・スラスター】の点火スイッチを入れたバトルスピアの遥たちは、
槍から「キィィィン!」と青白いプラズマの尾を吹き出させ、まるで魔女のホウキのように槍に跨って楽しそうに空を飛ぶもの。
槍の柄にぶら下がって、スラスターの推進力で試験場を縦横無尽に滑空するもの。
槍を両手でしっかりと保持しながら、背後からの爆発的なブースト加速によって、もの凄い速さで試験場の地面を滑走するものまで現れた。当然、普通の人間が使えば一瞬でG(遠心力)と加速に耐えきれず、壁に激突して肉塊になるような超人兵器である。それを見た他のアオサギ遥たちも、羨ましくなったのかクローディア(マリ)の元へワラワラと詰め寄り、
「マリー! 私にもその飛ぶやつをください!」と、目をキラキラと輝かせてせがむのであった。クローディア(マリ)の余計なひらめきによって出力されたナノスラスタースピアは、開発者の意図を遥かに超えた、極めて想定外の(けれど最高にエキサイティングな)使われ方をしていた。




