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8-1 重厚なゲンドウポーズとBTO(受注生産)ロジック

8-1 重厚なゲンドウポーズとBTO(受注生産)ロジック


渡辺譲司――ナベさんの次の依頼は、あろうことか「新しい近接武器のバリエーションを作って欲しい」という内容であった。


あまりにも意味深な態度と、あの重厚なゲンドウポーズで構えられたものだから、二人はてっきり自分たちの隠蔽工作に何か致命的な落ち度でも発覚したのかと冷や汗を流していたのだが、完全に拍子抜けであった。


しかし、現場の製造部門の責任者であるナベさんからしてみれば、これは冗談抜きの死活問題なのである。いくら高性能な装甲服(本体)が完成したところで、換装できるオプションパーツ(武器)が揃っていなければ、商品としての魅力は半減してしまうからだ。


例えるなら、お店で売られている完成品のデスクトップパソコンを購入するようなものである。店頭に並んでいる既製品を買って帰るだけなら、その仕様(スペック)は最初から一つしか存在しない。


しかし、メーカーのネット直販でBTO(受注生産)注文する場合はどうだろうか。基本となるベースモデルは共通であっても、自分の用途や好みに応じて、メモリを増設したり、グラフィックボードやストレージを個別に追加・カスタマイズして注文できる。


パソコンの話が分かりにくいのであれば、自動車や二輪車(バイク)を思い浮かべてほしい。ディーラーで新車を契約する際、基本のグレードを選択してそのまま終わり、という買い方をする人は少ない。


カタログを開き、自分のライフスタイルに合わせて、カーナビやエアロパーツ、内装のシートカバーといった豊富な「オプション」を選定し、自分だけの一台に仕上げて購入するのが一般的だ。


いま、渡辺が熱弁しているのは、まさにこの『商品カタログにおける選択肢(オプション)』が欲しいということだった。なるほど、買い手側にしてみれば、追加パーツの選択肢が豊富にあるのと無いのとでは、製品としての魅力に雲泥の差が生まれるのは言うまでもなかった。


しかし、ここで一つ問題があった。クローディア(マリ)達は当初、遥になる前の初期の試験体を使って、様々な近接武器を持たせて耐久試験(3章以前)を行っていた。


だが、開発の途中でマリが「色々な武器のデータを調整するのは飽きた、面倒くさい」という極めて身勝手な理由により、武器のバリエーションを剣と盾の2つだけに絞り込み、挙げ句の果てには7章の『アオサギ(廉価版)』の設計時に「外れるし無くすから不便」として、腕のハードポイントへダイレクトに固定する片手剣一本のみに仕様を集約してしまっていたのである。


そして、そのマリのこだわりだったはずの固定式の剣も、製造現場のテスターたちからは「取り回しが不便」「暴走した時に危なっかしくて見ていられない」という不満の声が続出していた。


現場の死活問題である以上、やはり開発者として看過できる問題ではなかった。


「だったら、過去の実験で色々持たせていた時の武器データが残っているはずだから、それをそのまま製品版の製造ラインに流して実体化(再生)すれば良いじゃない」そう思ったナベさん達製造部門のエンジニアは、過去の試験データログからサルベージを試みた。


しかし、ここで思い出すべきは、この装甲服の根幹を成す【HIMAT(超進化型・統合分子自律技術)】の、あの鉄壁の仕様である。


現場の一般の機材やプログラマーの手では、過去のログから武器を強制生成することなど、天地がひっくり返っても不可能なのであった。白川ゆりの組んだ独自の暗号化コードは、ここでも完璧すぎるほど冷徹に機能していた。


他人がデータを盗用したり、開発者の意図しない方法でシステムを複製・改造しようとすれば、プログラム自体が自動的にロックされ、完全に破綻するように組まれていたからである。結果として、過去に自分たちが「面倒くさい」と放り投げ、厳重に鍵をかけて隠匿してしまったツケを、今度は自分たちの手で膨大な『オプションカタログの再開発』という形で支払わされる羽目になった二人。


メイン画面の向こうで「頼むよ、お二人さん!」と手を合わせるナベさんを見つめながら、ゆりとマリは再び、乾いた笑いを浮かべるしかないのであった。

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