7-16 白・青・黒:三羽の鷺のラインナップ完成
7-16 白・青・黒:三羽の鷺のラインナップ完成
「ふむ。ミドルレンジが必要となると、そうだね。基本スペックは『シラサギ』のちょうど半分の出力を、その機体における100%(最大値)とするモデルにでも調整しようかな」クローディア(マリ)は人差し指を立てて、ナベさんの要望に対する解決策をあっさりと口にした。
「……また安直ね。つまり『分かりやすさが一番』、なのでしょう?」
「ゆりも随分と私の思想が分かってきたじゃないか! そう、まさにその通りだよ、何事も明快なのが一番さ!」ゆりの若干の諦めにも似たような呆れ顔に対し、マリは満足そうに深く頷いて答えた。
「そうすると、仕様としてはシラサギの出力の50%を最大値にして作る感じかしら」
「そう、それで良いと思うよ。出力調整システムの組み込み方も、さっきシラサギ用に作った並列可変OSのデータが丁度ここにあるからね、それを流用しようかな。10段階で任意に変更。よし、こんな感じかな!」
ちなみに、一番安いエントリーモデルである『アオサギ』の出力については、シラサギ最大出力の10分の1(10%)を最大値(100%)として設定し、一般の兵士が初めて乗っても絶対に暴走事故を起こさない安全第一のスペックとして綺麗に割り振ることにした。マリはそう言いながら、作ったデータをゆりの端末に転送する。
「え、もう出来たの、相変わらず早いわね」ゆりは転送されたデータを受理して確認する。
「分かったわ。このデータを元に作成してみるわね」そういってゆりは端末を操作し始める。しばらくしてモニターにシラサギの50%の出力を持つモデルが表示された。ゆりは比較がしやすいように、アオサギとシラサギもその左右に表示させて対比しやすいようにした。
「こんな感じになったわね。名前と色も変更するのでしょう」ゆりはそう言って、隣でモニターを見ているクローディアに話しかける。
「名前は、そうだね。クロサギで。色も黒にしておこうかな」わかっているじゃないか、と言わんばかりの満面な笑みでこたえるクローディアである。白、青、黒。
天野グループの未来を担うことになる、三羽の鷺の製品ラインナップが、この研究室のコンソールの上でついに完璧な形で出揃った瞬間であった。
ちなみに、新しく設計されたこの『クロサギ』の試験については、内部の基幹プログラムや減衰率の構造がすでにデバッグ済みのシラサギと同等であると判断されたため、クローディア(マリ)が自ら着こんで試験することや、クローディア(マリ)のいたずらによってゆりが再び服を剥ぎ取られて強制的に着せられるような悲劇が再び繰り返されることはなく、試験は行わなかった。
クロサギの試験は行わなくてよいのか?
製品開発のプロセス(デバッグ)として極めて真っ当で正しいご指摘である。
結論から申し上げると、軍事兵器や人命に関わる実戦用の装甲服である以上、「本当にクロサギ(ミドルレンジ)も試験しなくて良いのか?」と言われれば、絶対に実地試験を行うべきである。
では、なぜ彼女たちが「シラサギと同等であると判断され、試験を行わなかった」という流れになっているのか、その理由を考察する。
1.物語のロジック(SF・開発設定)からの理由
最大値がすでにデバッグ済みであるため
ハイエンドの『シラサギ』は出力100%であり、マリが体を張ってデバッグした結果、普通の人間でも安全に制御できる減衰率のプログラムがすでに完成している。
クロサギは「シラサギの数値を50%に落としただけ」の安全圏にあるため最高出力100%で完璧に動くシステム(シラサギ)を、そのまま綺麗に「半分のパワー(50%)に制限」したものがクロサギである。
つまり、シラサギよりも遥かに負荷が低く、最初から安全圏に入ることが数学的に確定しているため、プログラムの構造バグを疑う必要がなかった、という天才科学者二人ならではの高度な割り切り(過信)がある。
2.キャラクターたちの心理からの理由
ゆりの切実な防衛本能(これが最大の理由)
ゆりにとって、先ほどシラサギの試験の際に、マリと遥のパワープレイによって強制的に服を剥ぎ取られてお仕おき試着させられた恐怖は、今なお鮮烈なトラウマ(心労)として残っている。
もしここで「よし、じゃあ念のためにクロサギも実地テストしようか!」という流れになれば、高確率でまたマリのいたずら心が発動し、「ゆり、もう一回脱いで着ておくれ!」と2回目の強制お着替えイベントが発生することは火を見るより明らかであった。
そのため、ゆりは何が何でも「シラサギと同等だから試験は絶対に不要!!」と大声で主張してコンソールをクローズした、という裏の事情があった。
マリの「つまらない仕事」への飽き
マリにとっても、出力を落としていく作業は「天才の私の脳細胞が泣いちゃうつまらない仕事」である。アオサギで色味を変えるところまでは大はしゃぎでしたが、基本システムが完成してしまった以上、これ以上同じような数値確認のテストを繰り返すのは「面倒くさい・飽きた」という彼女のワガママな本音もあった。
結論として、このままで大丈夫か?
製品開発の現実としては試験を実行するべきだが、「あの大惨事とお着替えドタバタを経て、ようやく完璧な白・青・黒のデータが出揃った! ゆりもこれ以上の被害(全裸・お着替え)を受けずに済んで本気でホッとした!」という空気のまま、ナベさんへの報告へと向かったというのが真実である。
クロサギの裏事情を加筆




