7-15 アオサギの量産化決定とシラサギの10段階リミッター
7-15 アオサギの量産化決定とシラサギの10段階リミッター
ダークブルーの新型装甲『アオサギ』を身に纏ったクローディア(マリ)の実地動作試験は、何一つ問題を起こすことなくスムーズに終了した。
「ふむ。さっきゆりと私が体を張って修正したデバッグ値を最初から100%綺麗に落とし込んでいるのだから問題が起きないとは分かっていたけれど……。これはこれで、エントリーモデルとして完成で良いかな」
「そうね。アオサギはこの仕様のままで量産に回して問題ないと思うわ。……でもマリ、まだ宿題は残っているわよ」コンソールの前に戻ってきたマリを、ゆりは手元の共有フォルダを指差しながらピシッとたしなめるのであった。
「うげ。まだ何かあったんだっけ……」すべてをやり遂げたつもりでいたマリは、露骨に嫌そうな顔をして眉をひそめた。
「ハイエンドである、この元の『シラサギ』の件よ。一般のテスターが機体の能力を全開放するとまた天井や壁に事故るのは目に見えているわ。……これ、どうするの? 操縦権自体に何か安全用のリミッターでも掛けるのかしら」
「あぁ、その件ならすでに考えがあるさ。元の調整前の数値を100%として、全10段階で任意に出力調整を切り替えられるようにしたよ」ゆりの質問に対し、マリは笑いながらあっさりと答えた。だが、そのセリフを脳内で反芻したゆりは、怪訝そうな表情をしてタイピングの手を止めた。
「……ちょっと待って、マリ。今、何か日本語がおかしかったわよ。これから対策を『する』じゃなくて、もう『した』って……どういう事?」
「いや、言葉通りの意味さ。さっき試験場で走り回りながら数値をデバッグしていただろう? せっかく制御プログラムを書き換えるのだから、調整している間に、バックグラウンドの同時進行で『出力を段階的に任意で可変できるマルチセレクトOS』へと最初から作り変えておいただけだよ」ゆりはその平然とした答えを聞いて、背筋に冷たいものを感じながら改めて思った。
(……この子の頭の中、一体全体どういう構造になっているのかしら?)と。普通なら一つのバグを直すだけで精一杯の極限の突撃実験中に、勝手に新システムの基本プログラムまで同時並行で並列構築していたというのだ。ゆりはやれやれと深い溜息をつき、これ以上常識の物差しで測るのは無駄だとばかりに、諦めたように首を振った。
「……あ?、うん。分かったわ、あなたが天才なのは嫌というほど理解したわ。じゃあ、ハイエンドのシラサギの件も、その10段階リミッターの仕様で完成ということで良いと思うわよ」
「よし、これで終わりだね!」と伸びをするマリに、ゆりは画面のスクロールを下げて冷酷に告げた。
「いいえ、ではこれが本当に最後の案件よ。ナベさんの最初の注文の中に、『ミドルレンジ(中級機種)』もラインナップに欲しいと言っていたわね。……どうするの? これに対して何か案はあるかしら」
「え、ナベさんそんな事言っていたのかい? う?ん……全く覚えがないな」マリは綺麗さっぱり忘れていたようで、心底不思議そうに小首を傾げた。
どうやら彼女の脳内では、一番強い「ハイエンド」と、一番安い「エントリー」の上と下さえ作ってしまえばそれで仕事は終わりだと考えていたようである。だが、世の中の製品(商業流通)というものは、それほど単純なものではなかった。
世間一般において、一番価格の安い【エントリーモデル】。
何か新しい物事を始める人間にとっては、何よりも初期投資の値段が安いこの大衆普及モデルを購入する人が市場の大半を占めるであろうことは間違いなかった。
そして次に、【ミドルレンジ(ミドルクラス)】のモデル。
エントリーモデルをすでに所有している一般の人間が、機体の扱いに慣れてきてステップアップの買い替えを検討する際に、最も考慮される極めて重要な中間層である。一気に最高峰のハイエンドまでお財布の紐を緩めて上り詰めるか、それとも現実的なコストパフォーマンスを重視してミドルレンジで抑えておくか悩むところではあるが、価格帯と性能のバランスが最も中間で安定しているため、あらゆる商業製品において事実上の「一番の売れ筋(主力商品)」になる層でもあった。
最後に、【ハイエンドモデル】。
言わずと知れた、シリーズ化された全製品の頂点に君臨するモデル。コストの制限を完全に度外視して開発されたモデルだけあって、その性能はシリーズ中圧倒的で最高を誇る。お値段が自分のお財布事情にさえ合えば、「いつかは絶対に手に入れたい」と夢見る憧れのモデルであった。
最高峰のハイエンドモデルを『シラサギ(白)』と言うなら、一番安いエントリーモデルが先ほど完成した『アオサギ(群青色)』である。
ただ、現段階の開発データには、その中間を綺麗に埋めるべき肝心の「ミドルレンジモデル」の仕様が完全に存在していなかったのである。ナベさんこと渡辺譲司の熱い要望は、まさにこの、市場で最も売れ筋になるであろう中間のミドルレンジにも、明確な製品(機体バリエーション)が欲しいと言っているのだった。




