7-12 シラサギ最適化プログラムの完全完成
7-12 シラサギ最適化プログラムの完全完成
マリと遥の二人に抵抗むなしく服を剥ぎ取られ、有無を言わさぬパワープレイで白い装甲――製品版の基準となる『シラサギ』を無理やり纏わされたゆりは、広大な屋内試験場の真ん中にポツンと立ち尽くしていた。
「……何故、私がこんな目に遭わなければならないのよ……」ゆりはバイザーの奥で、ぶつぶつと呪いの言葉のように恨めしげな独り言をこぼしていた。そんなゆりのすぐ横には、白銀の『シラユキ』姿になった遥が、万が一の暴走に備えて万全の体制でスタンバイしている。さらに少し離れた安全な場所には、同じく白いシラサギ姿に戻ったクローディア(マリ)が、楽しそうにゆりの様子を観察していた。
「ほら、ゆり。いつまでもそこで固まっていたら試験終わらないよ」コントロールルームからのマイク越しではなく、無線通信から響くマリの能天気な急かし声に、ゆりは観念したように奥歯を噛み締めた。
「わ、分かっているわよ。や、やるのよ、私……!」
「はい、ゆり。お任せください」ゆりは意を決すると、恐る恐る、まずは一歩を踏み出して前方へと走り出した。彼女の動きにぴったりと並ぶようにして、横の遥も滑らかな足取りで並走し始める。最初の数歩は生きた心地がしなかったゆりであったが、しばらく走り続けていくうちに、不思議なほど身体が軽いことに気がついた。先ほど映像の中で見たテスターたちのように、自分の意志を置き去りにして壁に激突するような危なっかしい暴走挙動は1ミリも発生しない。
「――あれ? 思ったほど怖くはなさそうね……」人間の脳の応答速度とパワーアシストの減衰率が完璧にデバッグされているおかげで、ゆりは走る楽しさを覚えるほど、すぐにその駆動へと慣れていくのであった。装甲服を着たゆりの身体は運動で熱を帯びてくる。しかし、その瞬間にインナースーツ側のHIMATがゆりの体温上昇に反応した。温度調整システムが「自動」で駆動し、繊維内のナノマシンが一斉に熱交換を開始したのだ。スーツの内側に、エアコンが効いているかのような「ほのかな心地よい涼しさ」がじわりと広がり、ゆりは走りながら科学者として深く感心せざるを得なかった。
(――意外と良いわね、これ。これほど衣服の中が蒸れずに涼しく保たれるなら……実戦用の装甲服だけじゃなくて、人間が夏場に着る普通の日常服の分野にもこの技術があると、猛暑対策として最高に便利かしら)そんな少々場違いな商業展開を脳内で考えてしまうくらい、ゆりには普通の人間として完全に余裕のあるスムーズな動きが出来ているのであった。
「――テスト終了! さすがはマリね。あれだけ本社をパニックに陥らせていた暴走事故の機体なのに……。アシストの減衰も完璧で、素人の私が操作しても全然問題なく思い通りに動かせたわ」試験場の中央で静止し、ヘルメットを脱ぎながら、ゆりは満面の笑みで告げた。彼女が下した、新しく調整されたシラサギへの評価は、文句なしの「良」であった。白銀の装甲をパージした遥も、トコトコとマリの元へと歩み寄り、いつも通りの涼しい顔で報告した。
「マリ。ゆりの制御が最初から最後まで100%完璧でしたので……私の出番はありませんでした」
「そうだろう、そうだろう! さすがは私さ!」これ以上ないほどの大成功を納め、クローディア(マリ)は最高のドヤ顔を浮かべた。
両手を腰にしっかりと当て、これでもかとばかりに胸を張り、すまし顔で誇らしげに答えるのであった。
これにて、普通の人間でも100%安全かつ快適に動かせるよう、シラサギの出力を最適化したプログラムが最高の形でここに完成したのである。




