7-11 数兆個のナノマシンによる環境・体温制御システム
7-11 数兆個のナノマシンによる環境・体温制御システム
結局、二人はあれこれと専門的な議論を戦わせながらキーボードを叩き合い、数兆個のナノマシンを内包した新型のハイテク・カーボンファイバースーツへと一気に仕様を変更し、完成させた。
そして、先ほどの大惨事サウナ試験と全く同様に、出来上がったばかりの新型スーツと白い装甲を纏ったクローディア(マリ)が再び試験場の真ん中に佇み、バイザーの中に仮想現実のデバッグモードを起動させた。
スーツの環境・温度管理システムは、バイザー越しのモニターを確認しながら、音声入力または視線入力によって「自動」と「手動」を瞬時に切り替えることができる設計だ。
人間が感じる体感温度や発熱量には個人差も出るであろうことから、一律の固定設定ではなく、操縦者の好みに合わせて冷暖房の出力を細かく最適化できる調整方式としてあった。
以前の危なっかしい試験とは打って変わり、試験場の中を快調に動き回っているマリは、ヘルメットの奥で快適そうに満面の笑みを浮かべてパラメータの微調整を行っていた。
「いやぁ、これは快適、快適! ナノマシンの熱交換で、スーツの内側がほのかに冷たくなるのが、テストで動いて火照った身体には丁度良いよ! 我ながら本当に素晴らしい仕事を成し遂げてしまったね!」
「それは重畳ね。……これで、シラサギのデータもほぼ修正できたのではないのかしら」コントロールルームのモニター越しに流れる各種グラフの値と、試験場のマリの無駄のない滑らかなフットワークを見るに、ナベさんの動画で見たあの危なっかしい暴走挙動は完全に消え去っていた。
スーツの破壊的なパワーは、完全に人間の制御下に置かれているように見えた。運動神経が一般人以下を自称する素人のマリが、何一つ壁にめり込むことなく、これほどまともに動けているのだ。シラサギのミドル・エントリーモデル化の調整は、100%成功と言えるものであった。
正式なエンジニアたちが寄ってたかってお手上げだった調整を短時間で仕上げたマリの天才的な工学の才能と、壁際で何度も彼女をノータイムで完璧にキャッチし続けた遥の圧倒的なフィジカルサポートがあってこそ、成し遂げられた神業であった。――だが。
ここから場面は、本日最後のメインイベントへと移るのである。
「よし! じゃあ、次は当初の予定通り『ゆり』にもこの新型を着てもらおうか! 試着してもらい動作の感想も聞きたいしね!」ヘルメットを脱ぎ捨てて管制室へと戻ってきたマリが、ニヤニヤと悪魔のような笑顔を浮かべて宣言した。
(……え? あれ、本気で実行する話しだったの!? 冗談だとばかり思っていたのに……!)ゆりは一瞬にして、盛大に顔色を思い切り青くさせてガタガタと椅子の肘掛けを掴んだ。
「い、いや! 私は絶対に、死んでも着ないわよ! いや、何が何でも着ないからね!!」
強い拒絶の言葉をオウム返しに叫びながら、ゆりは全力で拒否の意志を示すように首を左右に激しく振りまくった。
しかし、マッドサイエンティストと、その忠実な人造人間が、開発のための貴重なサンプルデータを前にして引き下がるはずがなかった。
「よし遥。ゆりにもこれからの天野グループの未来のために、動作試験のサポートを手伝ってもらおうと思うんだ。……ゆりのお着替えを、優しく丁寧に手伝ってあげておくれ」
「はい、マリ。分かりました」
「ちょっと待って、遥! あなた私の味方でしょう!? 近寄らないで、来ないで――きゃあああああ!?」悲鳴を上げるゆりの元へと、白銀の装甲を脱いだインナースーツ姿の遥が、1ミリのブレもない一糸乱れぬ足取りでトコトコと無慈悲に歩み寄る。
そうして、にっこりと微笑むマリと、主人の命令に絶対従う遥の完璧な連携プレイによって、ゆりが着ている服は、抵抗も虚しくその場でずるずると強制的に剥ぎ取られていくのであった――。




