7-10 HIMAT導入・完全自律型ハイテクアンダーウェア
7-10 HIMAT導入・完全自律型ハイテクアンダーウェア
ゆりに強制的に服を着せられたクローディア(マリ)は、ようやく乾き始めた髪をかき上げながら、再びコンソールの前に座り直した。「――ゆり、さっき言おうとした極めて重大な案件がね」
「はいはい、インナースーツの熱処理問題よね」マリが皆まで言わんでもよろしいとばかりに、ゆりは手元のキーボードを叩きながらぴしゃりと言い当てた。
「たしかに、快適な室内(常温)の試験場であそこまで茹だるような状態になるのですものね。実戦の現場を考えるなら、極寒の地や酷暑の砂漠、あるいは激しい大雨や吹雪といった、あらゆる過酷な気候や環境をあらかじめ想定して設計しておく必要がある訳よね」
「そうんなんだよ、ゆり! さすが、話しが分かる相棒だね!」嬉しそうに身を乗り出してくるマリに対し、ゆりは冷ややかな視線を向けた。
「いや、あなたのさっきのあの凄まじい惨状を見れば、誰だって一発で分かるわよ。……というかさ、マリ。ナベさんのところでさっきシラサギを試着していた製造部門のテスターの人達は、この件は大丈夫だったのかしら」
「あ……たしかに、そう言われてみればそうだよね。間違いなくこれ、現状だと一級の欠陥品だよ。絶対にあの日、モニターに映って壁にめり込んでいたあのテスターの皆さんも、スーツの内側は私と同じように汗だく地獄になっていたはずさ」二人は、先ほど自爆激突を繰り返していた社内のテスターたちの映像を思い浮かべる。
男性兵士であれば、最悪の事態になればプライベートな部分さえ最低限隠しておけば、その場で素っ裸になって汗を拭いても、ギリギリ現場のトラブルとして処理できなくはないかもしれない。
……本当に問題がないかどうかは法律や倫理的に激しく別問題として。
しかし、女性の隊員が前線で装甲を脱ぎ捨て、先ほどのリビングでのマリのように、完全に生まれたての姿のまま平然と歩き回るわけにはいかないだろう。ましてや、いつどこから敵アノマリーが襲ってくるか分からない、文字通り命のやり取りをする極限の戦場において、あのような無防備極まりない痴態をさらすわけには絶対にいかないのだ。
装甲のアシスト制御(応答速度や減衰率)の数値を神業で修正している最中に、思わぬ「人間側の生体防護」という根本的な大問題が発覚した瞬間であった。
「――まぁ、私という偉大な犠牲が出たものの、逆にこうとも言えるよ。本番の戦場に出荷される前に、早めに弱点が露見して良かったと。科学の発展のためには、そう前向きに考えるべきかな!」
「そうね。まぁ……だったら、インナースーツの側も装甲本体と同じように、『HIMAT(統合分子自律技術)』の制御下に入れてしまえば良いだけの話しよね」今まで着ていたあのスーツは普通のカーボンファイバーの布切れだったのか、という開発手順へのツッコミはさておき、二人の天才の結論は即座に一致した。
インナー側の繊維にもナノマシンを充填し、装甲とリンクさせて自動で最適な体温維持・熱交換を行わせる、完全自律型のハイテクアンダーウェアへとシステムを統合すべきという答えが出たのだ。
「そうなると……また新しいシステムモジュールの組み込みプログラムを書かないといけないね。やれやれだよ、仕事が増えた」
「泣き言を言わない。私はさっそく、スーツ側に適応させるための『HIMAT』の環境最適化コードを組んでみるわね」二人はシラサギの出力パラメータの修正を一度完全にストップし、普通の人間を内側から完璧に保護するための、新たなるインナースーツの修正案へと一丸になって取り組むのであった。




