原初のダンジョンと惑わせの森
静まり返った面会室にはスキンヘッドのゴリマッチョ眼帯と一樹の2人だけになった。
「とりあえず座るか。」
ギルマスはソファをすすめた。
「まずは自己紹介と説明をしていきたいとこだが、お礼と謝罪をさせてくれ。辺境都市を救ってくれてありがとう。そして、領民の所有物を貴族の権力を使い回収させてすまなかった。」
一樹はただただ感心した。見た目はおっかないが上に立つ者だが、間違いにはしっかり頭を下げることができる。中々できることではない。
「わかりました。お礼と謝罪は受け取りました。」
ギルマスに罪はないと思うが話しが進まなくなるので受け取ることにした。
「ありがとう。では、先に自己紹介だ。俺は辺境都市ファシア支部、冒険者ギルドマスター、ロックウォードだ。よろしく頼む。」
「冒険者ギルド所属予定の一樹です。よろしくお願いします。」
「ほおぉ…予定か。まぁ話しを続けよう。何から聞きたい?」
こちらのことは聞かず話を進めてくれた。ありがたい。
「では、先程話しに出てきて気になった『原初のダンジョン』についてお願いします。」
1番気になっていたことを聞くことにした。ダンジョンは『森のダンジョン』以外知らないので情報が欲しい。
「わかった。『原初のダンジョン』は全3階層、難易度1の初心者ダンジョンだ。しかし、このダンジョンは冒険者に開放していない。なぜかわかるか?」
突然の問題、ビックリです。聞きたいことを聞いたのに疑問を返す、嫌われる上司まっしぐら。
「わかりません。」
「そうか…それは『原初のダンジョン』のモンスターが落とすドロップ品が、ファシアの経済を支えているからだ。」
「経済ですか?」
大部分を支えているならピンチだと思うが……さっき渡した生命石でダンジョンが復活するのかな?
「あぁ。1階に火スライムと水スライムがいるから火の魔石と水の魔石が取れる。これで都市の台所の魔道具が動いているから尽きると大問題になる。」
おぉ!『森のダンジョン』の地下2階と同じだな。こっちは風スライムと土スライムもいるがな!ドヤッ。
「2階には岩塩タートルから塩、コッコバードから卵と鶏肉、下級トレントから木材、シュガーラビットから砂糖が手に入る。3階はミニゴーレムが数種類出現するから鉄、銅、鉛、岩などが取れるな。3階のみボスが最奥に出現する。シルバーゴーレムとゴールデンゴーレムで、ミニではないからそこそこ強いが、銀と金を取れる魅力的なダンジョンだ。再出現は10日から30日ってとこだな。」
「なるほど。辺境では高くなりそうな『塩』『砂糖』、武器防具に必要な『金属』、都市を囲む頑丈な壁の作成に必要な『岩』、その全てを1つのダンジョンで賄ってしまう。そんな重要なダンジョンが死んだら…」
「あぁ…辺境都市は壊滅、破棄、もしくは王国の直轄地にするしかない。他にもダンジョンがあるから商業都市に出来るかもしれないが、立地的に厳しいとしか言えない。」
だろうな。商人が周りの街から物資を運べばなんとかなるかもしれないが、今より物価は高くなる。そうなると領民は別の領地へと移住してしまうだろう。そうなると税収が見込めないから税が上がる。負のスパイラルに陥るだろう。
「ダンジョンが死んで、約20日と言ったがそろそろ気付いた領民もいるんじゃないのか?」
「あぁ。いるとは思うが領主が市場に出回る量を普段から調節していたから、余剰になって保管していたものを開放したからなんとか混乱は避けられている。もし、このままならあと10日程で軍が動き、1年もしくはもっと短い期間で国の直轄都市となるだろう。経済はガタガタ、治安は最悪、そして惑わせの森からやってくるモンスターを倒さなくてはならない。」
「最悪だな…」
「ああ…そうなったらな。お前さんが『ダンジョン生命石』を渡してくれたおかげで、あと2.3日の辛抱になった。助かったよ。」
「本当にダンジョンは復活するのか?」
「最奥にある場所に『ダンジョン生命石』を嵌め込むと、だいたい数時間でモンスターが生まれるようになる。その後、領主所有の兵が片っ端から倒していくだろうよ。」
「そして、保管していた物資がそこを突くまでにはダンジョンからの収入が元に戻るか…良かったな?どっかのヘタレが勇気を出して人里目指して。」
重い空気が嫌で自虐ネタを言ってみた。ロックウォードは初めキョトンとしていたが、すぐに笑い始めた。
「ハッハッハ!そうだな!ヘタレ野郎には感謝しなくちゃな。」
「まったく…こんな大事件に巻き込まれるなら森でジッとしてればよかった。」
「確かにな!だが、このタイミングで良かったんじゃないか?もしかすると、奴を討伐するために冒険者や傭兵を集めて、森を徹底的に捜索してたかもしれないからな。そしたら、間違って捕まり、なんやかんやで殺されることもあっただろうよ。」
ひぇぇ。確かに良かったかもな。良さげな貴族とパイプも繋がったし、のんびり森生活が出来そうだ。
「あとほかに質問はあるか?」
「ある。なんでそんなに森を警戒しているんだ?そんなに強いモンスターいないだろ?」
「それはここ1年ほどの間だけだ。それより前は奥に行くほど30レベル以上がウヨウヨしてたよ。最近、元のレベルに戻りつつあるしな。…森の奥にある崖の上では生活していないよな?」
どういうことだ?
「あぁ…ちょうど崖の下辺りで生活しているが、偶に上から落ちてきたモンスターを退治しているくらいだ。」
今言った通り一樹は、何度か崖の上から来たモンスターと戦っていた。下にいるモンスターより強いが、一樹より少し弱いと思っている。
「倒したのは昼間か?」
「ああ。そうだ。」
いったい何だというのだろう?夜のモンスターのほうが強いのだろうか?
「崖の上は夜行性のモンスターがほとんどで、凶暴性が高い。倒しても倒しても切りがないのが崖の上だ。夜限定でパワーアップし、スタンピートを起こすダンジョンでもあるのかと思うくらいに増えるみたいだ。ここ、辺境都市はその防衛拠点だった。」
夜のほうが強いのか。数が増えるみたいだが、夜に落ちてきたモンスターはいない。なぜだ?
「なるほど。最近もモンスターが大量に流れてくるのか?」
「だったと言っただろ?過去には何度もあったらしいが、文献レベルだ。最近は森よりも、ファシア所有のダンジョンがスタンピートを起こす。まぁ、冒険者も育ってきたし、その時はほぼ祭り状態になるがな。」
しっかり見れなかったが門も凄かったもんなぁ。ダンジョンから岩も取れるし常に補修され頑丈なんだろうな。
いくらレベルが上がれば強くなれると言っても、数で迫ってきたモンスター退治を祭りって……危険な都市だな。
「そうだったのか…そうなるとエルフの村人は全滅してしまったほど弱いのはなぜだ?恐らく開拓村なのだろうが、全滅するような者達を送ったとなると領主様の責任問題にならないか?」
このことは早い段階で疑問だった。
エルフの村が隠れ里のように独立し、辺境都市の領地でないなら存在自体あっても仕方ないが、会話の中からエルフの村は領地に入っていると確信したが、どうなのだろうか?
ギルドマスターは頭を掻きながら答えた。
「ああ…今回は運が悪かったとしか言えないな。あのエルフの村にはS級冒険者が2人住んでいたんだ。ダンハ老師の実力は知っているか?あの人も元S級なのだが、あんなのが2人もいるんだぞ。安全な村だと思わないか?」
めちゃくちゃ首を縦に振った。あんなのが2人だと?!小国なら落とせるんじゃないのか?
「その2人が王都に呼び出されて留守にしていた。その間の出来事だったんだよ。」
うわぁ…最悪のタイミングだよ。俺が運を吸い取っちゃったのかな?
「忠告しておくが、惑わせの森は未だに謎の多い森だ。昔、人族100人程で開拓村を作った。初めは定期連絡をして順調だったらしいのだが、突然連絡を断ったらしい。すぐに調査隊を組んで村に向かうと不思議な光景が広がっていたらしい。なぜか争った形跡もないのに1人もいなかったらしい。」
突然のホラーですか?話し変わってない?
なにそれ…テーブルの上にはまだ温かいスープがありましたとでも言いたいのか??やめてくれぇぇぇ!!
「その後、何度も開拓村が出来ては潰れ、出来ては潰れた。それでもわかったことがあった。森の民と称されているエルフのみが消えることはなかった。なので、エルフ達に開拓村をやってもらっていたのだ。」
おぉ!だからエルフの村かぁ。やっぱ自然豊かな森といえば、エルフだよな。
「そこまでして、森に村は必要なのか?」
「あぁ。人はな、未知なるものが怖いんだよ。だから、謎の森を監視して、少しでも安全を確保したいのさ。特にお偉いさんはな。」
ギルドマスターがまた頭を掻きながら答えた。
なるほど。地球の歴史でも、野生の獣達を恐れ、科学が進歩し、街灯が作られていったもんな。(最近だと変質者対策らしいけど。)
「あとな。崖の上なんだがもう1段階あるんだ。」
……。
「発見してのはエルフの村にいたS級2人とダンハ老師の臨時パーティーだ。その時は崖の上の調査だったため奥に奥にと、進んだらしい。すると、また大きな崖を発見した。」
…………。
「当時S級になりたての3人に怖いものがなかった。だからだろうな…登っちまったんだよ、その上に。」
……………。
「そして、帰ってきた3人はボロ雑巾のような状態だった。3人曰く、『あそこは人が踏み入れてはならない。』と言っていたらしい。それからは、惑わせの森の一般的な領域を【初級エリア】崖の上を【中級エリア】3人が踏み入れた領域を【上級エリア】と呼ばれている。…………よくそんな森で一人暮らししてるな。尊敬するぞ。」
だあああぁぁぁぁ!!なんなんだよあの森!!絶対に転移先に選んじゃいけない森じゃねぇかよ!普通、始まりの森って果物豊富で、うさぎやスライムしかいない場所じゃねぇのかよ!!?
一樹はリアルorzとなって泣いた。
『名を取るより得を取る』
名誉よりも実利をとる方が賢明であるということ




