第二二話 理解できないもの
文化祭から数日が過ぎた。
教室は元の日常に戻っている。
全国的に梅雨入りして、雨が続いていた。
授業。
休み時間。
他愛もない会話。
何も変わっていないように見えた。
七月頭の試験に向けて皆頑張っているようだった。
だが、咲良には全てそうには見えなかった。
大きく変わったように感じたのは、ひよりと悠真の関係だった。
二人とも普通に話している。
だが以前とは違う。
会話の途中で沈黙が入ることが多くなった。
二人の目が合うと逸らす。
笑いあうこともある。だが少しだけぎこちない。
文化祭の日を知っている咲良には、それがはっきり分かった。
昼休み。
廊下を歩いていた時、女子トイレの前を通ると偶然聞こえてきた。
本当に偶然だった。
同じクラスの女子達の話し声が聞こえてきた。
「本当に断ると思わなかったよね」
笑い声。ふと立ち止まる。
「鈴木真面目だからさ」
「言うこと聞いちゃったんだよ」
文化祭の日。
ひよりの涙。
悠真の顔。
女子達の会話。
頭の中で線が繋がった。
帰宅途中、咲良はずっと考えていた。
腹が立っていた。
正直に言えばかなり。
だが、同時に違和感もあった。
本当にそれだけだろうか。
翌日、咲良はその女子達を見るようになった。
別に監視ではない。
少し気になっただけだ。
そういうことにしておく。
女子達はいつも通りだった。
笑う。
喋る。
昼食を食べる。
普通の女子高生だ。
だがある時、悠真の話題になった。
「また告白されたらしいよ」
「モテるよね」
「かっこいいし」
軽い口調で、悠真を見ながら言っていた。
だが視線はあまり軽くなかった。
咲良は少し考える。
嫉妬。
たぶんそれに近い。
さらに数日後、また聞こえてしまった。
「……悪かったかな」
女子の一人が小さく言った。
別の女子も黙る。
「まあ」
「今さらだけどね」
それ以上は続かなかった。
咲良は少し驚いた。
もっと開き直っていると思っていた。
もっと無責任だと思っていた。
だが違う。
後悔している。
ただ、どうしていいか分からないのだ。
その日の夕方。授業終わり。
教室の窓から夕日が差し込む。
ふと隣を見る。ひよりは帰る準備をしていた。
「どうしたの?」
「いや」
咲良は少し言葉に詰まる。
「別に何でもない」
そういいながら、視線を別の方向に逸らす。
女子達は向こうで笑っている。
悠真は男子達と騒いでいる。
誰も悪人には見えなかった。
だから余計に分からない。
好きだった。
告白した。
断った。
嫉妬した。
傷付けた。
後悔した。
全部本当なのだろう。
だからこそ、最近の若いやつは分からん。
ひよりも分からん。
悠真も分からん。
女子達も分からん。
だが、分からないからといって切り捨てるのは簡単だ。
理解できるかは分からない。
だから、もう少し見てみよう。
咲良は静かにそう思った。




