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第二一話 文化祭の終わり

文化祭は終わった。

特に大きな問題はなかった。


本当に、何も問題はなかった。


母と姉が現れて。

執事姿を写真に撮られ。

教室中に笑われた。


だがあれは事故だ。

トラブルではない。

トラブルは無かった。

無かったんだってば。

そんな言い訳ばかり考えていると、顔に出ていたらしい。

「咲良ちゃん」

「何だ」

「まだ気にしてる」

ひよりが言った。

「気にしてない」

「気にしてる顔ですよ」

「気にしていないって」

ひよりが笑う。

悠真も横で笑っていた。


文化祭終了後、教室では後片付けが始まっていた。

装飾を外す。

段ボールを畳む。

机を戻す。

祭りの後しまつだった。


数時間前まで賑やかだった教室が、少しずついつもの教室へ戻っていく。

皆すこし名残惜しそうに、片付けを続けていた。


その時、咲良は気付いた。

悠真がひよりに声をかけた。二人で教室を出ていく。


「……」

咲良は少し考える。

文化祭当日、高校生。幼馴染。

ひよりは悠真を見るときだけ、少し顔が違う。

悠真もひよりを見る目は、違っていた。


「気になるな」

小さく呟く。

そして、二人の後を付けた。


今思えば、良くなかったかもしれない。

だが気になったのだ。


夕暮れの教室棟の校舎裏。

人の少ない場所だった。

咲良は物陰に隠れる。

本当に何をしているんだ私は。


ひよりと悠真が向かい合っていた。

しばらく沈黙。

やがて悠真が口を開く。

「ひより」

声が少し硬かった。

ひよりも緊張している。

その瞬間、咲良は理解した。


ああ。

これは。

そういうやつだ。

ドラマでも見た。

「好きだ」

悠真が装飾する言葉もなく、ストレートに言った。

「付き合ってほしい」

何も取り繕うこともない、ストレートな告白だった。


咲良は内心で頷く。

やはりそうか。


ひよりは驚いていた。

だが、同時に少し嬉しそうにも見えた。


咲良は安心した。

良かったな。

そう思った。

悠真は良い奴だ。

ひよりも悠真を信頼している。

上手くいくのだろう。

そう思った。


ひよりは俯いた。

小さく拳を握る。

そして。

「ごめん」

結果は予想外だった。


悠真が固まる。

咲良も固まる。

「え」

思わず声が出そうになった。

慌てて口を押さえる。


ひよりは続けた。

「ごめんなさい」

「私」

一度言葉を止める。

そして。

「付き合えない」

静かな声だった。


悠真は黙る。

ひよりも黙る。

見ているこちらも苦しかった。

だが、もっと分からなかったことがあった。


ひよりの顔だった。

泣きそうだった。

苦しそうだった。

悲しそうだった。

まるで。

断りたくなかったみたいに。


しばらくして、悠真は小さく笑った。

「そっか」

無理しているのが分かった。

「ありがとう」

「ちゃんと答えてくれて」

ひよりは何も言えない。

ただ頷く。

それだけだった。


やがて二人は別々の方向へ歩いていく。

咲良はしばらく動けなかった。

夕日が差している。

文化祭は終わった。


教室へ戻る。

誰も何も知らない。

文化祭成功。

打ち上げの話。

笑い声。

ここ最近感じていた、いつも通りのクラスの雰囲気だった。

そこにひよりと悠真の二人も戻ってきた。

いつも通りに、ただ別々のクラスメイトに話しかけていた。


咲良には分からなかった。

本当に、分からなかった。


ひよりは悠真が好きなはずだ。

彼女が彼を見る目は間違いなく親愛のそれだ。


だからこそ断った理由がわからなかった。


だとしたら何故だ。

好きなら、付き合えば良いのではないか。

そうだろう?

それが普通ではないのか。

適当な理由をつけて、打ち上げの誘いは断った。

ひよりと悠真も今日は帰るらしい。

最近は三人で帰ることが多かった。

しかし、用事があると言って皆別々の道で帰ることになった。


帰り道、一人歩きながら考える。

五十二年間生きてきた。

恋愛もした。結婚もした。


だが、今の高校生の恋愛はどうも分からない。

最近の若いやつは分からん。


久しぶりに、心の底からそう思った。


そうして、ひよりの涙の意味だけは最後まで理解できなかった。


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