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第二十話 文化祭当日

文化祭当日。

朝から学校はいつも以上に騒がしかった。

普段の何倍もの人がいる。

保護者。

卒業生。

近所の人。

中学生。

そこにさらに在校生が出店の客引きをしたり、扮装をして練り歩いている。

校舎全体が祭りのようだった。


一年三組も忙しかった。

男子メイド喫茶。

女子執事喫茶。

未だに意味は分かっていない。


だが、意外と客は多かった。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

男子達がぎこちなく接客している。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

女子達は執事服で客を案内していた。

咲良もその一人だった。

「こちらへどうぞ」

咲良の身長は低めで、小動物みたいな印象だ。

美女というよりかは美少女の分類だろう。

だが、いつもはそのままにしている長い黒髪は後ろ手に纏めており、活発な印象を受ける。

さらにそこに落ち着いた声に丁寧な仕草が加わる。

そのギャップが好評だった。

「めっちゃ似合ってる」

「本物みたい」

「かわいい。けど、かっこいい」

客の声が聞こえる。

理解はできない。


だが、仕事としては悪くなかった。

接客。案内。人の流れの管理。

自分が以前働いていた環境とは全く違う。

だが悪くないとは感じていた。

咲良は淡々と仕事をこなしていた。


ひよりが嬉しそうに言う。

「佐々木さん人気みたいですよ」

「気のせいだ」

「気のせいじゃないです」


その時、入口の方が急に騒がしくなる。

「うわ」

「綺麗な人」

「誰かのお母さんとお姉さんかな?」

咲良は何気なく視線を向けた。

そして固まった。

「あ」

恵子だった。

さらに、その隣には美咲。


「咲良ちゃーん!」

美咲が自分を見つけると全力で手を振ってきた。

目線をそらす。

最悪だった。

やめろ。

心の中で叫ぶ。

だが届かない。

美咲が自分の傍まで寄ってきた。

それでも目線は意地でも合わせない。

「似合ってるー!」

美咲、頭を撫でるのをやめろ。

「かわいいー!」

恵子、本当にやめてくれ。

「写真撮っていい?」

駄目だ。完全に駄目だ。

完璧だった接客が崩壊する。

「え」

「ちょ」

「おい」

顔が火照っているのを感じる。

普段の咲良なら言わない言葉が漏れる。

客やクラスメイトまで驚いていた。


恵子は笑っている。

美咲はもっと笑っている。

「すごい執事じゃん!」

「やめろ!」

美咲に目線を合わせて、ついに言った。

教室が静まり返る。

近くのひよりが目を丸くする。

メイド喫茶の方で接客をしていた悠真も固まっている。

咲良本人も固まった。


しまった。

完全に取り乱した。

すると、教室の隅から声がした。

「ああ……」

以前、ギャップ萌えを力説したいつもの彼だった。

調理を担当しているが騒ぎを聞いて出てきたらしい。


ゆっくり眼鏡を押し上げる。

そして、どこか感慨深そうに呟いた。

「これが……」

全員が彼を注視する。次の言葉を待っている。

「ギャップ萌え」

少しの沈黙。


そして次の瞬間、教室が爆発した。

「分かる!」

「今のやばかった!」

「普段冷静なのに!」

「動揺してる!」

「かわいい!」

咲良は頭を抱えた。

「意味が分からん」

「だから、これがギャップ萌えなのですよ」

例の彼……、いやもうオタクでいいか。

オタクが真顔で続ける。

「小動物のようでかわいらしいのに」

「クールで冷静で仕事ができる」

「本当の執事みたいです」

「すでにそこでギャップが発生しています」

オタクは一度顔を伏せる。

「だが」

まだ続けるのか。

「母親と姉の襲来でそのレギュレーションすら崩壊する」

「これは強すぎます」

何が強いのか分からなかった。


ひよりまで頷いている。

「確かに」

「確かにじゃない」

「可愛かったですよ」

「可愛くない」

「可愛かったです」

店内は全体の動きが止まっていたが、客も満足そうだ。

本当にそれでいいのか。

メイド喫茶で接客をしていた悠真も近くに来て笑いながら言ってきた。

「佐々木でもああなるんだな」

「人間だからな」

「今初めて人間味を見た気がする」

「失礼だな」

また笑いが起こる。


恵子と美咲は完全に満足そうだった。

写真まで撮っている。

帰ったら絶対に怒る。

そう思った。

だが、誰も馬鹿にはしてこなかった。

みんな楽しそうだった。


文化祭は続く。

教室には笑い声が響いている。


最近の若いやつは本当に分からん。

今でもそう思う。

さらに、最近の若いやつは人の失敗まで楽しそうに笑う。

そして、その失敗ごと受け入れてくれるらしい。

そんなことを思いながら。

咲良は真っ赤になった顔のまま、再び執事喫茶の仕事へ戻っていった。

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