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第一話 家族の顔合わせ

朝食の席には妙な緊張感が漂っていた。


「というわけで」

恵子が言った。

「この子がお父さんです」

「どういうわけだよ……」

高校1年生である、息子の翔太は一人真顔でぼやいた。

「説明したでしょ」

「説明は聞いた」

「理解できた?」

「できるわけないだろ」

間違いなく正論だった。

食卓には父親と言い張る女の子がいる。

黒髪で整った顔立ち。

見た目で言えば中学生ぐらいだろう。


問題はその女の子が焼き魚をつつきながら新聞を読んでいることだった。

「……いつもの父さんだ」

翔太はぽつりと呟いた。

「だろう」

「父さん以外にそんな女の子いない」

「だろう」

「嫌だ……」

切実だった。


公作は新聞を畳んだ。

「そんな顔をするな」

「無理だって」

「何がだ」

「全部だよ」

「反抗期か?」

「違う……」

翔太は頭を抱えた。

「昨日まで父さんは父さんだったじゃん」

「今でもお前の父さんのつもりだ」

「違う」

「何が違う」

「説明できないけど何もかもが違う」

どう見ても父親ではない。

でも父親と言い張る女の子。

そう説明する母、面白そうな姉。

あまりにも異常な朝、異常な食卓だった。


向かいでは大学二年生、娘の美咲が興味津々だった。

「へー」

「何だ」

「結構可愛いね」

「褒められても困るんだが」

「肌きれい」

「俺が手を入れたわけじゃない」

「髪もきれい」

「そこも俺が管理しているわけじゃない」

「いいなあ」

「何がだ」

「若返り」

「若返ってない」

「見た目だけなら中学生ぐらいじゃん」

「そうらしいな」


美咲はしばらく公作の顔を眺めた。

「じゃあ私の妹?」

「妹じゃない」

「お姉ちゃんって呼んで」

「断る」

「一回だけ」

「断る」

「けち」

恵子が吹き出した。

翔太はまだ真顔だった。

終始こんな顔だった。

「……」

「翔太」

「……」

「無言で反抗するな」

「だって」

ようやく口を開く。

「なんだ」

「友達になんて説明するんだよ」

食卓が静まった。

それは誰も考えていなかった。

「父親が女の子になった」

翔太が言う。

「絶対信じてもらえないじゃん」

「俺もそう思う」

公作は頷いた。

「だから言わなければいい」

「そういう問題じゃないんだよ……」

「そういうもんだろう」

翔太は再び頭を抱えた。


美咲がぽつりと言った。

「まあでも」

全員が娘を見る。

「お父さんはお父さんだよね」

「そうだな」

「見た目が変わっただけで」

「そうだ」

「中身は全然変わってないし」

「うむ」

「いつもどおり、朝ごはんを食べながら新聞を読んでるし」

「そうだな」

「その姿なのに、今にも『最近の若いやつは分からん』って言いそうだし」

「まだ言ってない」

「じゃあ、若いやつになってみて分かった?」

美咲が尋ねる。

公作は少し考えてから答えた。

「最近の若いやつは分からん」

一瞬の沈黙。

「今のお父さんが、それ言う?」

美咲が吹き出した。

恵子も肩を震わせている。

翔太ですら、少しだけ口元を緩めた。

「何がおかしい」

「だって」

美咲は笑いをこらえながら言う。

「お父さんが、その『最近の若いやつ』になってるじゃん」

公作は言葉に詰まった。

確かにそうだった。

どう見ても、自分は若者側である。

少なくとも見た目は。

「見た目だけだ」

公作は新聞を広げ直した。

強がっているのは誰の目にも明らかだった。

家族全員が笑った。

公作だけが笑わなかった。


確かに中身は何も変わっていない。

変わったのは見た目だけだ。

少なくとも今は。

まだ、そのはずだ。

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