第十八話 文化祭準備
文化祭まで二週間。
教室は徐々に騒がしくなっていた。
そして。
「だからその配置だと入り口が狭いって!」
「でもこっちの方が可愛くない!?」
女子と男子が言い争っていた。
原因は店内レイアウトだった。
女子執事喫茶 兼 男子メイド喫茶。
今でも意味は分からない。
そこはもう諦めた。
問題は机の配置だった。
男子は効率重視。
女子は見栄え重視。
当然意見はぶつかる。
「入れないだろ!」
「映えないじゃん!」
「文化祭なんだぞ!」
「だから文化祭なんだって!」
議論は平行線だった。
咲良は少し安心した。
こういう光景は知っている。
会社にもあった。
営業部。
生産部。
経理部。
立場が違えば意見も違う。
珍しくない。
咲良はまとめるために立ち上がった。
「少しいいか」
教室が静かになる。
「双方の意見は理解できる」
男子も女子も見る。
「ならば折衷案を考えよう」
何人かが頷く。
咲良は続けた。
「入り口は広くする」
「ただし装飾スペースも確保する」
「動線も維持できる」
「写真映えも悪くない」
「こういった形でどうだろう」
咲良はさらさらと設計図に線を引いた。
自分では悪くない案だと思った。
ほぼ確実に会社なら意見が通る。
だが、女子が言った。
「いや」
嫌な予感がした。
「それじゃ中途半端じゃん」
今度は男子。
「そうそう」
「どっちつかずじゃね?」
咲良は完全に固まった。
「え?」
予想外だった。
女子が続ける。
「だったら私は可愛い方がいい」
男子も頷く。
「俺は広い方がいい」
咲良はさらに固まる。
会社であればそれぞれの部署の意見をまとめた妥協案は歓迎される。
だが、高校生は違った。
「どっちも譲らないのか」
「譲りたくないし」
「譲るわけないだろ」
男子も頷く。
咲良は理解できなかった。
そして。
「佐々木さんはさ」
女子が言った。
「別にどっちでもいいからそう言えるんじゃない?」
痛かった。
男子も続く。
「確かに」
「当事者じゃない感じする」
さらに痛かった。
悪気はない。
だが刺さる。
咲良は黙る。
結局、議論はしばらく続き。
最終的には多数決になった。
見映え優先の女子案が採用された。
放課後、咲良は一人で机に突っ伏していた。
久しぶりだった。
地味にへこんでいる。
「咲良ちゃん」
ひよりだった。
「何だ」
咲良は突っ伏したまま返事をする。
明らかに元気がなかった。
ひよりが困った様子で聞いてきた。
「怒ってます?」
「いや」
少し考える。そして顔を上げた。
「傷付いた」
ひよりが吹き出した。
「正直ですね」
「正直だな」
そこへに、悠真も来た。
「大丈夫か」
「何がだ」
「めちゃくちゃへこんでるじゃん」
否定できなかった。
悠真は苦笑する。
「佐々木さ」
「うむ」
「なんか、会社員とか向いてそう」
咲良は固まった。
クラスメイトには特に事情は説明していない。
だが限りなく正解に近かった。
「何故分かった」
「分かるよ」
悠真が笑う。
「まとめようとするもん」
ひよりも頷いた。
「確かに」
「そうです」
「いつもそう」
咲良は少し考えた。
確かにそうだった。
会社勤めをしていた三十年間。
対立したらまとめてきた。
妥協点を探して。
折衷案を作って。
それが専務としての仕事だった。
だが高校生は違う。
譲らない。ぶつかる。本気で言い合う。
悠真が言う。
「別にあれでいいと思うけど」
「ん?」
「みんな文化祭本気なんだろ」
それはその通りだった。
ふざけているように見えて。
全員本気だった。
だからぶつかる。
ひよりが笑って続ける。
「咲良ちゃん」
「何だ」
「今回は残念でしたね」
「……うむ」
「次また頑張りましょう」
まるで試験に落ちた人への励ましだった。
咲良は少しだけ笑う。
「そうだな」
最近の若いやつは分からん。
だが。
最近の若いやつは、思っていたより熱かった。
そんなことを知った一日だった。




