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第十五話 学級会

高校生活が始まって三週間ほど経った頃。

そろそろゴールデンウィークに入る時期となり、皆新しい環境にも慣れてきたようだった。

教室ではクラスメイトが新しくできた友人と休みの約束を交わす様子が見られてきた。


咲良は一つの事実に気付いていた。

高校という場所は思っていた以上に騒がしい。

無論、荒れていた具合で言えば自分たちの時期の方が荒れていたかもしれない。


授業中は静かだ。

だが休み時間になると別世界になる。

誰かが笑い、叫び、廊下を走る。

先生が注意する。

だが、五分後にはまた走っている。

理解できなかった。


ゴールデンウィーク前の週、この日は朝からホームルームだった。

担任の佐藤が教壇に立つ。

「よし」

出席簿を閉じる。

「文化祭の話するぞ」

教室がざわついた。


「まだ四月ですよ?」

誰かが言う。

確かに文化祭は六月上旬だったはずだ。

ゴールデンウィークが明けてからでも十分間に合うように思えた。

「だからだ」

担任は平然としている。

「今のうちに決めとかないと後で揉める」

その言葉には妙な説得力があった。

「とりあえず案を出せ」


次の瞬間。

「お化け屋敷!」

「喫茶店!」

「縁日!」

「焼きそば!」

「映えるやつ!」

「映えるやつって何だ!」

一気に教室が騒がしくなる。


咲良は固まった。

「何をしているんだ」

隣のひよりがこちらに向く。

「文化祭の話です」

「誰か議事進行役はいないのか」

「え?」

「議題整理は誰がやるんだ?」

「え?」

「予算はどうするんだ?」

「え?」

ひよりは本気で意味が分からない顔だった。


咲良は腕を組む。

会議として成立していない。

前提条件を決めていない。

発言者が同時に喋る。

誰もまとめない。

論点が飛ぶ。

笑い声が起きる。

また話題が飛ぶ。

会社なら十分で中止になる。

「最近の若いやつは分からん」

思わず呟いた。

「また言ってる」

ひよりが笑う。


その時。

「メイド喫茶やろうぜ!」

教室が盛り上がる。

「おおー!」

「いいね!」

「可愛い子いるし!」

男子達が騒ぐ。

女子達も笑っている。


咲良は理解できなかった。

企画の妥当性ではなく、盛り上がりで決まりそうだった。


すると悠真が手を挙げる。

「男子はどうすんだよ」

「執事やればいいじゃん」

「やだ」

「なんでだよ」

「恥ずかしいだろ」

爆笑。拍手。


咲良は頭を抱えた。

「会議ではないな」

「だから会議じゃないですって」

ひよりが言う。

「では何だ」

「学級会です」

説明になっていなかった。


担任は教壇でその様子を見ている。

全然止めない。

むしろ少し笑っていた。

しばらくして手を叩く。

「はいはい」

不思議と教室が静まる。

「一回メイド喫茶は保留な」

「えー!」

「理由は?」

誰かが聞く。

「お前ら絶対途中で面倒になるだろ」

教室が爆笑した。

反論できる人間はいなかった。

咲良だけは少し感心した。

担任は放置しているようで、ちゃんと見ている。


そして。

「他にあるか」

また話し合いが始まる。

今度は少し落ち着いていた。


いつの間にか、黒板に案が整理されている。


縁日。

メイド喫茶。

脱出ゲーム。

展示物作成。

ちゃんと候補になっていた。

咲良は少し驚いた。


途中までは間違いなく無秩序だった。

だが最終的には何をしたいのかまとまっていた。


会社とは逆だった。

会社は最初から整理をして内容を詰めていく。

高校生はまず好き放題話す。

そして後から整理する。


やり方が違う。それだけだった。


ホームルーム終了後。

咲良は職員室へ向かった。

担任へ聞きたいことがあった。

「先生」

「ん?」

「今日の学級会ですが」

担任は少し面倒そうな顔をして答えた。

「なんだ」

「最初から整理した方が効率的では」

やはりそう来たか、そんな顔をされた。

担任は笑いながら答えた。

「そうだな」

「そうでしょう」

「効率だけならそうだろう」

そこで言葉を切る。

「でも高校生だからな」

咲良は黙る。

担任は窓の外を見ていた。

グラウンドで生徒達が騒いでいた。

「くだらない案を出すのも経験」

「失敗するのも経験」

「友達と笑うのも経験」

「回り道するのも経験」

グラウンドで騒いでいる生徒達を眺めながら言葉を続けた。


「俺らは文化祭だけ成功させたいわけじゃないんだ」

咲良は返事ができなかった。

会社では違う。

成果が重要だ。

効率が重要だ。

利益が重要だ。


だが学校では、過程にも価値がある。

長い会社員生活で忘れていた価値観だった。


教室へ戻る。

ひよりと悠真が何やら話している。

楽しそうだった。

内容は分からない。

話題も大したことではないだろう。

それでも、あの時間そのものに意味があるのかもしれない。

「咲良ちゃん?」

「何だ」

「また難しい顔してます」

「そうか」

「文化祭は嫌いですか?」

咲良は少し考えた。

そして答える。

「いや」

本音だった。

「まだよく分からんだけだ」

ひよりは笑う。

「それなら大丈夫です」

「何がだ」

「そのうち慣れます」

そういうものだろうか。


咲良にはまだ分からない。


やはり、最近の若いやつは分からん。


その言葉の後に、少しだけ続きが付くようになっていた。


最近の若いやつは分からん。

だから見てみたい。


そんな風に思えるようになっていた。


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