↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/27

第十四話 学校での翔太

入学から一週間。

高校生活にも少しずつ慣れてきた。


三日もあれば全体の構造は把握できる。

教室、移動教室の場所。職員室。図書室。機材置き場。購買。食堂。

ただ、学校という組織は少し勝手が違った。

先生は社員ではない。

生徒は部下でもない。

指示系統は存在する。

だが、指示に従わないこともある。

組織ではある。

ただやはり、会社とは違うようだった。


そんなことを考えながら、昼休み。

ひよりと昼食のために一緒に中庭へ向かっていた。

「咲良ちゃん」

「何だ」

「購買や食堂は使わないんですか?」

「いつも弁当を持ってきている」

「真面目ですね」

「普通だろう。そういうひよりもいつも弁当じゃないか」

「でも、高校生は購買争奪戦とかがあるらしいんですよ」

「争奪戦?」

「戦争らしいです」

ひよりは真顔で言っていた。

理解はできなかった。


その時だった。

向こうから数人の男子生徒が歩いてきた。

二年生らしい。

体操服姿。

直前が体育の授業だったのだろう。

そして、その中に見覚えのある顔があった。


翔太だった。

咲良は思わず足を止めた。

翔太も気付く。

ほんの一瞬、目が合う。


そして、翔太が露骨に固まった。

ひよりが不思議そうに首を傾げる。

「知り合いですか?」

「いや」

「いや」

二人同時だった。

沈黙。

ひよりはさらに困惑した様子だった。

「知り合いじゃないんですか?」

「まあ」

咲良は少し考えた。

「兄……だ」

それを聞いた翔太が一瞬だけこちらを見た。

突っ込みたそうな顔だった。

「お兄さん!?」

ひよりが目を丸くする。

「そうなのか?」

「まあ」

咲良は頷く。

「そういうことにしておこう」

翔太も諦めたように頷いた。

「妹だ」

「やっぱり!」

ひよりは妙に納得している。

「同じ佐々木だもんね!」

翔太の胸にある名札を見ながら言う。

そりゃ同じだ。

そもそも親子だからな。

咲良は心の中だけで呟いた。


ひよりが翔太を見る。

「でも全然似てないですね」

「よく言われる」

翔太が答えた。

「雰囲気は似てる」

「そうか?」

「うん」

咲良も翔太も同時に首を傾げた。

そこまで一緒だった。

ひよりが笑う。

「そこです!」

しまったと思った。

「変なところがそっくり」

「変か?」

「変です」

即答だった。

翔太が吹き出した。

久しぶりに学校で笑う姿を見た。

その瞬間だった。

翔太の友人の一人が近付いてくる。

「翔太ー」

そして、咲良を見た。

「あ」

その反応は分かりやすかった。

高校生男子が美少女を見る時の反応だった。

咲良は気付いた。

翔太も気付いた。


「一年?」

「そうです」

ひよりが答える。

「可愛いじゃん」

翔太の顔が死んだ。

咲良は吹き出しそうになる。


友人は続けた。

「紹介しろよ」

「嫌だ」

即答だった。

「なんでだよ」

「なんでも」

「ケチ」

友人達が笑う。

咲良は事情を理解した。

これは嫌だろう。


友人が父親をナンパしようとしている。

全国を探しても、そうそうない状況だった。

「じゃあ俺ら行くから」

翔太が言った。

「うむ」

その前に近づいてきて囁く。

「学校だからな」

小声だった。

「分かっている」

「本当に?」

「分かっている」

翔太はまだ疑っていた。

どうやら自分がうっかり

翔太、勉強の方はどうだ

とか言い出すと思っているらしい。


正直、ほかの人がいない場所だと聞いてしまうかもしれない。

否定はできなかった。


翔太達は去っていく。

ひよりはその後ろ姿を見ながら言った。

「いいお兄さんですね」

「そうか?」

「うん」

咲良は少し考える。

確かにそうかもしれない。

家で見る翔太。

学校で見る翔太。

少し違っていた。

友人と笑う姿。

クラスメイトと話す姿。

知らない顔だった。

親なのに、知らなかった。

「咲良ちゃん?」

「何だ」

「なんか嬉しそう」

咲良は少し驚いた。

そう見えたのか。

「そうかもしれんな」

素直に認める。

「お兄さん好きなんですね」

「当たり前だ」

咲良は否定しなかった。

ひよりは少し笑った。


最近の若いやつは分からん。

ずっとそう思っていた。

だが、息子のことですら。

まだ全部は分かっていなかったのかもしれない。

そんなことを思いながら、咲良はひよりとともに中庭へ歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。