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偽物帝の後宮暮らし ~暗殺寸前の帝の影武者になったので、ついでだから後宮改革してみます~  作者: 岡崎マサムネ


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8.あの。暗殺者、誰か分かっちゃったんですけど

 燕星は絶句していた。


 そう。

 おそらくこの場にいる妃たちの中で相当数、違和感を覚えている者はいる。

 この帝は偽物なのではと、そう考えている者はいるはず。

 だが、それを皆の前で、口には出せないのだ。


 ここにいる妃たちは、基本的には帝に会ったことがない者ばかり。仮に会ったとしても、御簾越しに、ある程度の距離を保った状態であったはず。

 だからこそ――絶対に違うと、言い切るだけの証拠を持っていない。


 万が一、いや億が一、本物の帝だった場合――偽物だと因縁をつけようものなら、切腹では済まない。

 そしてもし偽物だったとしても、証明できなければ自分が不敬だと扱われることになる。誰もそんな危険を冒したくない。


 だからこそ、この状況。

 誰も――誰も。この帝は偽物ですよと、言えないのである。

 誰もが「自分以外の誰かが指摘してくれないかな」と思っているだけで、それを行動に移せないのである。

 それが「リスクを取る」というものだ。


 唖然としている燕星を横目に、蘭華は小さく笑う。

 底意地の悪い彼女の兄にしてみればこんなこと、当たり前に織り込み済みなのだろう。

 お伽噺でも、王様が裸であることを指摘できるのは、無邪気で恐れを知らない子どもだけだった。幸いにして――後宮の妃の中には、無邪気な子どもなど、いないのである。


「藍皇帝」


 凛とした声が、静寂を破った。

 一番近いところで礼を執っていた妃だろう。


 最も帝の御簾から近いところに、四人。その後ろに、二十人ほど。そしてさらに後ろは……何人だろう。

 よくよく見れば、妃の中にも服装や宝飾品に違いがある。特に目を引く豪華な衣装を身に着けているのが、一番手前の四人だ。


 おそらく位の高い妃なのだろうと、蘭華はその動きを観察する。


「四季の宮一同、帝のお越しを心よりお待ちしておりました」

「しきのみや……」

「最も正妃に近いとされる妃たちだ」


 小声で尋ねる蘭華に、燕星が耳打ちした。

 着付けられながら聞いた後宮の説明を思い出す。四季になぞらえて、四人の妃をそれぞれ春・夏・秋・冬の御殿に割り当てているという話だった。


 つまりこの手前の四人こそが、この後宮で最も位が高くて見目麗しく才覚に溢れ、帝の寵愛を虎視眈々と狙っている女たちということだ。


 もしも本当に暗殺者がいるなら……帝に近づく機会は多いに越したことはない。

 となれば、ここにいる四季の宮の妃やその側仕えの女官が第一の容疑者ということになるだろう。


「歓迎誠に大儀であった」


 妃たちが、蘭華の言葉に合わせて一斉に顔を上げた。

 御簾越しに、まずは四季の宮の妃の顔を順番に見回す。着物の意匠から見て、左から順に春、夏、秋、冬の順だろう。


 順番に確認して……ぴたりと、あるところで視線が止まる。四人の妃のうちの一人に、一際目を引く容姿の者がいたからだ。


 思わず蘭華は目を奪われ、息を呑む。

 何かの間違いかと思って目を擦ってみたが、蘭華の目にははっきりとその妃の姿が映っていた。


「燕星さん、燕星さん」


 そばに控えている燕星に手招きをして、蘭華はそっと耳打ちした。


「あの。暗殺者、誰か分かっちゃったんですけど」


 燕星は何も答えなかった。

 ただ蘭華の目を一瞥すると、小さく頷いた。

 それを受けて、蘭華は重々しい様子で口を開く。


「……秋の宮よ。今宵お主のところへ渡る」

「はっ、ありがたき幸せにございます」


 顔を上げていた秋の宮が頭を下げて、再び礼を執った。

 ざわざわと広間にざわめきが広がる。

 その場に集った女たちからしても、帝が秋の宮を選ぶのは驚くべきことだったようだ。


 しかし暗殺者が分かった以上、これ以上この場に留まる必要はない。肝要なのは、いかにして自白を取ってこの賊をひっとらえるか、だ。

 それを打ち合わせるために、蘭華と燕星は早々に広間を後にした。



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