9.お前のようなデカい妃がいるかぁ!!
「帝。お越しいただきありがとうございます」
蘭華が燕星を伴って秋の宮を訪れると、秋の宮とその側仕えの女官たちが蘭華を出迎えた。
慣れない着物の裾をばっさばっさと振りながら部屋を横切って、用意された席に着く。
その前に控えた秋の宮がおずおずと蘭華に視線を向けた。
「申し訳ございません。選んでいただけるとは思っておりませんでしたので、少々驚いております」
「あー、えっと。どうしてあなたを選んだかというとですね」
蘭華は立ち上がった。
もう帝のフリはいいだろうと、そう判断したのだ。
背後では燕星が刀の鍔に指を掛けて、咄嗟に動き出せるように身構えている。
一つ息を吸って、吐いて。そしてもう一度大きく吸って――蘭華は高らかに叫んだ。
「お前のようなデカい妃がいるかぁ!!」
かぁ、かぁ……と、蘭華の声が部屋にこだました。
蘭華の目の前に傅く妃、秋の宮――いや、男は、言葉通りにたいそうデカかった。
デカいなんてものではなかった。もはや人間か山かと問われれば山だろうという大きさだった。
筋骨隆々、二の腕の太さなど蘭華の腹回りほどもある。
肩には西瓜が乗っているかのようだし、首も丸太のようだ。
当たり前のように短く刈り揃えられた髪、その上右目の上には刀傷が走っている。
申し訳程度に着物と頬紅だけは豪奢で妃と呼ぶにふさわしいものであったが、逆に言えばそれだけであった。
それ以外はまったくもって、妃の要素がない。女の要素もない。
漢の中の漢の要素しかない。
漢の中の漢にしか見えない妃を指名した帝に対する、広間中の女たちの視線と言ったら、もうしんどいったらなかった。
仮に今後本物の帝が後宮に渡ったとして、趣味を疑われてしまうかもしれない。風評被害も甚だしい。
どうして?
逆にどうしてこれでイケると思った????
蘭華は頭を抱えた。
王の謀殺を企む貴族が送り込んでくる暗殺者がこれなの?
この国大丈夫そ? 逆に謀反側がこの杜撰さならある意味安泰ってことなの??
「み、帝よ、どうなされた。俺に何か至らぬところでも!?」
「もう隠す気ないもんね!?」
俺とか言っちゃってるもんこの人。
助けて、誰か。
そう思って脇に控える燕星に視線を向けるが、さっと顔を逸らされた。
燕星は口を真一文字に引き結んで中空を見つめている。
完全に笑い堪えてるじゃん。蘭華は助けを求めるのを諦めた。
「とにかく、あなたですよね。帝の命を狙う暗殺者。まさかそんなバレバレの女装で潜入してるとか思わなかったですけど」
「暗殺者!? そんな、俺は」
おろおろ慌てふためく大男。
いやだから、何故慌てふためく。
バレて上等の気概がなかったらこうはならないだろ。
燕星が腰に佩いた刀に手を添えたところで、勢いよく襖が開かれた。
「み、帝! 誤解です!!」
壁の向こうに隠れていたらしい女官たちがどどっと部屋になだれ込んでくる。
そしてそのままその場に平伏すると、床にごりごり額をこすりつけた。その気迫に、蘭華はわずかにたじろいだ。
その隙を逃さず、妃は続ける。
「坊ちゃんは帝をお守りするためにここにいるのです!!」
「は?」
蘭華はぱちぱちと目を瞬く。
守る?
帝を??
暗殺ではなく??
「ぼ、坊ちゃんって、」
「このように可憐な妃が男だなどと信じられないかと思いますが」
「違うそうじゃない」
「どうか我々の話をお聞きください!」
「聞いて」
どう見ても男だから聞いて。
そう主張するのに一向に聞いてもらえなかった。
帝なのに。帝が聞いてって言ってるのに。
妃は話を聞かない以外はたいそう低姿勢で、またもや額を床にこすりつけんばかりの勢いで平伏している。
「坊ちゃんは武術に優れた紅家のお生まれ。先帝の頃より帝には重用していただき紅家の者はみな帝に感謝しております。ですので暗殺など企てるはずはございません」
「そんなことより」
「この後宮に帝の命を狙う不届き者が侵入するという噂を聞きつけ、お父上の命で姫に代わって後宮に潜入したのです」
「可憐って」




